Research Abstract |
本年度の研究では,モチーフの特徴はその識別能力にあると考え,最適な判別能力を示す配列パターンとして,モチーフ及びモチーフ変異体を同定することを目標とした.そのために,近年実用化された大規模クロマチン免疫沈降アレイ(ChIP)データを用いて,判別的な教師つき学習問題としてモチーフ同定問題を定義し,文書分類木とプロファイル型隠れマルコフモデルを用いた反復改善学習を用いて,モチーフを同定する.酵母の62個の転写因子に関して実験を行った結果,(i)モチーフが既知の39個の転写因子のうち,本手法では35個を正しく同定したのに対し,従来法では9個および16個に過ぎなかった.(ii)上記39個のうち,17個の転写因子についてモチーフ変異体を検出し,それらは機能アノテーション解析および発現解析によっても確認された.(iii)プロファイル型隠れマルコフモデルを用いた反復改善学習によりモチーフの判別能力は大幅に向上し,ChIPデータでは結合しないとされながらも,結合することが文献により確認されている99個のプロモーター配列のうち,66個について結合することを正しく予測できた.既知のモチーフの同定に関しても従来法を大幅に上回り,さらに,従来法では不可能であったモチーフ変異体を計算機により初めて検出した本手法の有効性から,識別能力という特徴が,実際の生体内の制御メカニズムにおいても極めて重要な役割を果たしているという可能性が示唆された. 一方,現在までの研究において既にヒトFGFR-1(hFGFR-1)の転写がE2F-1によって制御されていることをレポーターアッセイで示してきた.今回は,タンパク質レベルでこのことを検討した.hFGFR-1の転写制御機構を解析するにあたり,まずアデノウイルス法によるE2F-1過剰発現細胞を構築した.LoVo細胞にAd-E2F-1,Ad-Creを感染させた結果,E2F-1の発現上昇に依存して,hFGFR-1の発現上昇が確認できた.一方,Ad-Rb,Ad-Creをヒト線維肉腫細胞(HT1080細胞)に感染させた結果,Rbの発現上昇に伴い,hFGFR-1の発現は低下した.これらのことからhFGFR-1の発現はE2F-1によって制御されていることがわかった.
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