2006 Fiscal Year Annual Research Report
北太平洋亜寒帯域の鉄濃度が生物生産と二酸化炭素収支に及ぼす影響に関する観測研究
Project/Area Number |
16310019
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Research Institution | Fisheries Research Agency |
Principal Investigator |
小埜 恒夫 独立行政法人水産総合研究センター, 北海道区水産研究所亜寒帯海洋環境部, 室長 (40371786)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
葛西 広海 独立行政法人水産総合研究センター, 北海道区水産研究所亜寒帯海洋環境部, 主任研究員 (60371788)
西岡 純 北海道大学, 低温科学研究所環オホーツク観測研究センター, 助教授 (90371533)
渡辺 豊 北海道大学, 大学院地球環境科学研究科, 助教授 (90333640)
芳村 毅 財団法人電力中央研究所, 環境科学研究所物理環境領域, 主任研究員 (20371536)
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Keywords | 鉄 / 栄養塩 / 生物生産 / 親潮域 / 水塊トレーサ |
Research Abstract |
昨年度迄に採取した鉄サンプル全ての測定を終了し、加えて5月,7月,1月の観測航海で新たなサンプルを採取・測定した。3年分鉄の周年データから、親潮域表層の鉄濃度変動に関して以下の事が明確になった。 1]親潮表層の溶存鉄濃度は栄養塩と定性的に類似の季節パターンを取るだけでなく、親潮表層溶存鉄濃度の月平均値は硝酸のそれと常に一定比で増減している事が定量的に明らかとなった(ΔDFe/ΔN=27x10^<-6>[mol:mol])。この事から、親潮域表層に存在している溶存鉄は少なくとも一年以上は化学的に安定に海水中に溶存していられる形態であり、少なくとも周年変動の時間スケールでは、鉄の動態は生物による取り込みと中層での再分解、そして鉛直混合による表層への回帰でほぼ加不足なく説明できることが判った。 2]また観測値の硝酸溶存鉄プロットは鉄側に切片を持ち、従って鉄も硝酸も共に極めて低濃度となる夏期には親潮域表層は鉄制限でなく硝酸制限になる事、しかし春季ブルーム期にはケイ藻の成育限界鉄濃度(2.5nM)が比較的高い為に、硝酸より鉄の方が先にケイ藻の生育を抑制し始める事も定量的に示された。この結果から、親潮域の低次生態系が春季に鉄制限、夏期に硝酸制限になるという過去の個別の培養実験結果を矛盾無く説明する事が出来るようになった。 3]一方、観測された鉄:硝酸比が北太平洋中層水中の鉄:硝酸比に極めて近い事から、親潮域の高い鉄:硝酸比は冬期の鉛直渦拡散による北太平洋中層水の表層への供給が大きく寄与している事が改めて示された。更に冬期親潮域の鉄濃度断面観測結果の解析から、親潮前線付近に特に鉛直混合の大きな海域がしばしば発生し、そこで中層からの鉄の供給が集中的に行われている事が示唆された。しかしこのような局地的な鉛直混合の存在は海洋物理学的に予想外のものであり、今後は新たに予算を申請し、中層から親潮域表層への鉄供給過程の詳細を更に詳しく検討する必要がある。
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Research Products
(2 results)