Research Abstract |
一昨年来開発した実験系を用いて,1倍体生物で観察される突然変異の由来と2倍体生物で観察される突然変異の由来を明らかした。1倍体生物の代表大腸菌の場合,DNA複製が常に10^<-6>の頻度で間違いを作ること,この間違いを,mutHSLのミスマッチ修復系とpolAの複製修復系が対処して修復することを先ず明らかにした。大腸菌PolAタンパク質は,5'->3' exonuclease domainとKlenow domainから構成されている。PolAによるミスマッチ修復にはどちらのdomainが関わるのかを知るために,それぞれのdomain変異株を作成し,完全欠損株と比較した。その結果,5'->3' exoとKlenow domainのそれぞれの破壊株は,ミスマッチ修復に部分的に関与していることが明かとなった。次に,2倍体生物の代表として,出芽酵母のCAN1遺伝子を実験対象として突然変異を調べたところ,CAN1遺伝子変異株は観察されなかった。Haploid酵母の場合,10^<-6>の頻度でCAN1変異が観察されるので,diploidの場合,(10^<-6>)^2=10^<-1>2の頻度でCAN1変異が生じるとすると,通常の実験系では観察されないのは当然である。そこで,前もって片方のCAN1遺伝子を破壊した株,CAN1(+/-)ヘテロ接合体を用いた所,CAN1(-/-)ホモ接合体の出現頻度は10^<-6>ではなくて,10^<-4>となった。この場合,CAN1(+)アレルに新規に変異が生じたのではなくて,CAN1破壊アレルが正常アレルに乗り移った組み換え体が90%,正常アレルを持つ染色体が喪失した結果である場合が10%の割合で生じたことがわかった。以上をまとめると,1倍体生物の場合,DNA複製間違いとそのミスマッチ修復に依存した突然変異が生じること,2倍体生物の場合,先ずDNA複製酵素の間違いにより塩基置換などが10^<-6>の頻度で生じ,次に組み換えなどにより変異アレルと正常アレルの交換が10^<-4>の頻度で生じる,即ち2段階で変異が形成されることが明かとなった。
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