2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16320013
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
宇佐美 公生 岩手大学, 教育学部, 助教授 (30183750)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片山 洋之介 茨城大学, 人文学部, 教授 (10007750)
加藤 泰史 南山大学, 外国語学部, 教授 (90183780)
鎌田 繁 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (70152840)
田中 伸司 静岡大学, 人文学部, 助教授 (50207099)
小島 毅 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授 (90195719)
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Keywords | 正義 / 人権 / 比較思想 / マルチカルチュラリズム / ヨーロッパ中心主義 / 大義 / 君臣の道 / 分 |
Research Abstract |
(1)西洋近代に由来する権利乃至自由の文化と、それ以外の文化とが対立する場面では、経済・政治・軍事面での西洋の力の優位を自らの価値観・正義観そのものの正当化に引き寄せてしまう倒錯した議論の危険性を孕みながらも、啓蒙的普遍主義の理念に支えられて、西洋的正義ないし「人権」概念の普及がグローバルにすすめられてきた。 (2)しかし他方で同時に、西洋社会の内部では、自らを支える自由の原理によって、文化の多元性を承認してゆこうとする、(自己批判的)マルチカルチュラリズムの認識も徐々に浸透してきた。 (3)ところがこの(2)の状況でも結局は、さまざまな価値観や権利の対立が生じることになり、それが(1)の状況と変わらない様相を呈することになる。しかもこのマルチカルチュラリズム的状況の中では、西洋的な権利や正義を批判したり否定する議論も育まれてゆくことになるが、そうした動きに対しては、「自由のために」とか「人権を守るために」という名目で、それらを弾圧したり排除することが正当なのか否かという問題が生じている。 本年度は、本研究を着想するに至る背景となった問題状況を以上のように確認した上で、研究分担者がそれぞれ、自らの専門とする分野における「正義」や「人権」にかかわる研究状況を報告しあい、その知見と問題点を全員で共有していくことをさしあたりの目標とした。 具体的には、片山氏の報告をもとに、正義の概念の多義性を、「自然的」意味と「人為的」意味の区分、「イデオロギーとしての正義」と「黙約に基づく正義」の区分を基軸に据えて、アリストテレス、スピノザ、ホッブス、ヘーゲルといった西洋の代表的思想家の考えを整理するとともに、それらと共同体における「分」の思想との異同を考察し、それらがいわゆる「配分の正義」や「匡正の正義」と類比的であることを確認した。次いで、ソクラテスの対話を手がかりにした田中氏の報告をもとに、倫理的な思慮がもつ「自明性を破壊する」機能について考察し、さらに川本隆史氏の報告をもとに、1970年代以降の「正義論」をめぐる議論の変転を確認した。また、小島氏の報告によって、前期水戸学に見られるように、ある時期以降日本ではそれまで支配的であった情意的な「君臣の道」に対して、朱子学を手がかりに「理」によって人間のあり方を考え、「義に従って生きること」こそ自己実現の道とする「大義名分」論が展開され、普遍的原理に基づく歴史認識が志向されたことがあったことを確認した。そして改めて「大義名分」論と西洋的「正義」や「人権」思想、更にイスラームにおける「義」の発想の異同を確認した。 以上の様な諸点に関する相互理解を深めたところが全体としての実績と言えるが、研究分担者個々人は、それぞれの専門分野での研究実績を重ねつつあり、それらの実績は別記したとおりである。
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Research Products
(13 results)