2005 Fiscal Year Annual Research Report
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16320013
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
宇佐美 公生 岩手大学, 教育学部, 教授 (30183750)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片山 洋之助 茨城大学, 人文学部, 教授 (10007750)
加藤 泰史 南山大学, 外国語学部, 教授 (90183780)
鎌田 繁 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (70152840)
田中 伸司 静岡大学, 人文学部, 教授 (50207099)
小島 毅 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授 (90195719)
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Keywords | 正義 / 人権 / 報酬獲得術 / イスラーム / 理性の公的使用 / イデオロギー / 所有 / 多文化主義 |
Research Abstract |
(1)本年度は、16年度の研究成果を受けて、「正義」および「人権」とその周辺概念の意義についての掘り下げを行うとともに、西洋以外の地域・文化における「正義」概念の歴史的意義を検討することで、「正義」概念の普遍性と特殊性を明らかにすることを目指した。 (2)正義の多義性を、戦争責任や私的所有など具体的で現代的な問題との関係で考察することにより、多文化主義を呼び起こす議論の争点を明確化するとともに、正義を巡る文化相対性の限界とその超克の可能性を模索した。 (3)西洋近代の「正義」および「人権」概念は、一種のフィクション的性格をもちながらも、しかし単なる独断的捏造ではなく、その普遍的妥当性を指向している点が、個別の文化に根ざした創造的概念とは異なる点である。その特徴を、「公正さ」「イデオロギー」といった視点から考察することを目指した。 本年度は、以上の様な課題を共有した上で、各分担者の専門領域での研究成果の報告をふまえて、なるべく各自の専門領域の立場から異なる専門領域の問題系に対して積極的に介入・検討・批判を加えることにより、「比較研究」という本研究独自の姿勢を貫くことを心がけ、個別研究の他に二度の全体研究会を行った。 田中報告では、正義を技術論の文脈で捉えようとするプラトン『国家』編におけるポレマルコスの議論をとりあげ、正義を目的論的な行為理解に引き込んでゆくソクラテスの手法をたどりながら、最終的にエゴイズムを呼び込みかねない「報酬獲得術」の議論を梃子に(技術論的な正義理解の限界を乗り越え)善のイデアへと導こうとするソクラテス=プラトンの議論の問題性を、現代の視点から批判的に検討した。 鎌田報告では、神に従う宗教としてのイスラームにあって、正義について伝承知と理性知のいずれに比重を置くかによって神学上の学派が形成されていることを整理紹介した上で、合理主義の立場に立つムータズィラ派による自由と正義の理解をふまえつつ、アッラーマ・ヒッリーの正義論について考察を加えた。鎌田報告をもとにした議論では、キリスト教神学の議論と同型性をもち、啓示神学に由来する正義観が一つの大きな潮流をなしていることが確認された。また田中、鎌田報告から、いずれの文化においても正義概念が超越的背景を有しながら、それを(人間や生活の視点から)合理的に再解釈していこうとする活動があることが確認された。 加藤報告、片山報告、宇佐美報告では、超越的義務としての正義から相対的に切り離された近代における「正義」を、各々「理性の公的使用」、「イデオロギー」、「所有権」の観点から批判的に検討した。総体に近代の正義概念は、公開性、普遍性を指向しながら、他方でその地盤を特定の歴史的・文化的存在様式に置くが故に、一種の「ねじれ」ないし欺瞞性を払拭することが難しい。こうした「ねじれ」の根元の究明が次年度の課題として残された。
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Research Products
(14 results)
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[Book] 対話とアポリア2005
Author(s)
田中 伸司
Total Pages
258
Publisher
知泉書院
Description
「研究成果報告書概要(和文)」より
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