2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16320013
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
宇佐美 公生 岩手大学, 教育学部, 教授 (30183750)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒住 真 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (00153411)
加藤 泰史 南山大学, 外国語学部, 教授 (90183780)
鎌田 繁 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (70152840)
田中 伸司 静岡大学, 人文学部, 教授 (50207099)
小島 毅 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授 (90195719)
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Keywords | 正義 / 人権 / 報酬獲得術 / アドル / 愛 / 他者 / 理性の公共的使用 / 大義名分論 |
Research Abstract |
(1)本年度は、17年度の研究成果を受けて、西洋以外の地域・文化における「正義」概念の歴史的意義を検討するとともに、それらと西洋的「正義」概念との比較研究を推進した。その結果、日本語で「正義」と訳されるディケー、ジャスティス、アドル、「正義」(漢語)といった語の意味の文脈的違いが確認された。 (2)正義の多義性を、諸文化における他の倫理学的概念、とりわけ「善(よさ)」や「他者」「徳」「愛」といった概念と関係の中に構造的に位置づけることで、正義概念の意義の文化相対性を、多角的な視点から見直し、コミュニケーション不全に陥りかねない諸「正義概念」相対の対話の可能性を模索した。その結果、正義を語る「理(理性)」の側面よりも、むしろ語られる「正義」に伴いながらも正義論からは捨象されがちな「感情」の諸側面が対話ための重要な通路となりうることが確認された。 (3)「他者」問題を正義論の文脈で処理するための通路を、「神」「理性の公共的使用」「内的相対主義」を手がかりに考察した。 以上のような研究実績は、個別研究とは別に本年度三度にわたって行われた全体研究会での以下の報告をもとにしている。小島報告では、(1)の研究の一環として、漢語の「正義」の語義解釈をふまえつつ、朱子学における「義」の諸相の解明を通して、西洋的「正義」観念との異質性が検討された。片山報告では、小島報告に触れつつ、パスカル『パンセ』の断章を手がかりに、「力を正義とする」欺瞞的現実を「背後から見る」ことで、逆説的に語られざるを得ない「正義」の特性が検討された。「日本思想史における正義・愛・平和」と題された黒住報告では、「徳」論の文脈から考えたとき、「徳」が空白となった近代日本では「正義」の問題が、むしろナショナリズムと自愛(ナルシシズム)といった排他的道徳が働く市場・権力のみの問題へと収縮してしまったことが確認され、「愛」や「慈悲」といった徳との関係で正義を促え直すことによる平和論の可能性が論じられた。田中報告は、プラトン『国家』第一巻での「正義と報酬」をめぐる関係を整理し、有名な魂の在り方(徳)と国制の議論とのつながりを明確化した。鎌田報告では、(1)の一環として『クルアーン』に見られる公正('adl, qist)の用例と整理と、その宗教的および社会論的意義の検討結果が報告され、いわゆるjusticeとの異同が検討された。加藤報告は、カントにおける「理性の公共的使用」と「法」「政治」の関係を、ハーバーマスの「憲法パトリオティズム」と対比し、マルチカルチュラリズムの問題に開かれているのが自律的道徳主体に支えられた前者の立場であることを明らかにした。宇佐美報告は、天秤によって象徴される「正義」をめぐる議論の中にあって、「人権」を秤の対象から外す現代正義論の特殊性を確認し、正義の問題を「よき生」という広い文脈に位置づけ直す必要性を、A・センの議論と絡めて明らかにした。
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Research Products
(13 results)
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[Book] 現代倫理学事典2006
Author(s)
大庭健代表編集(黒住真, 鎌田繁, 加藤泰史, 片山洋之介, 小島毅, 宇佐美公生 分担執筆)
Total Pages
1075
Publisher
弘文堂