2006 Fiscal Year Annual Research Report
ユーザの個票データに基づくネットワーク外部性とスイッチングコストの分析
Project/Area Number |
16330044
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田中 辰雄 慶應義塾大学, 経済学部, 助教授 (70236602)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河合 啓希 慶應義塾大学, 経済学部, 助教授 (00276396)
矢崎 敬人 工学院大学, グローバルエンジニアリング学部, 講師 (10345150)
村上 礼子 近畿大学, 経済学部, 講師 (30411565)
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Keywords | ネットワーク外部性 / スイッチングコスト / アプリケーションソフト / 離散的選択モデル |
Research Abstract |
本年度は最終年度として報告書に力を注いだ。 個票データからの分析として最もよい成果を出せたものは、パソコンのOSとIP電話、そしてルータであった。そこでこの3つの製品に絞ってデータの精査を行うとともに、離散選択モデルによる推定を行った。ユーザの履歴からスイッチングコスト要因を変数化し、市場シェアからネットワーク外部性要因を変数化する。この二つからユーザの財の選択モデルをつくり、ここからネットワーク外部性とスイッチングコストを説明する。その結果次の知見が得られた。 (1)パソコンのOSネットワーク外部性は非常に強く、スイッチングコストもかなりの程度働いており、技術革新ではひっくりえせないほどに大きい。すなわち、10年以上先を行くような革新でなければひっくりかえせない。パソコンの歴史から見てそれだけの技術革新を現実に達成できるとは考えにくく、ゆえにネットワーク外部性は大きな参入障壁となっている。競争が減退している可能性が高い。 (2)IP電話でのネットワーク外部性は、音質・信頼性など技術革新で対抗するには難しいが、料金換算で600円ほどであり、思い切った料金引き下げを行えば対抗できるほどの大きさである。スイッチングコストも300円ほどでそれほど大きいわけではない。市場自体が急激に拡大しており競争が減退しているとは思え得ない (3)ルータについては、ネットワーク外部性はその大きさは必ずしも有意ではない。スイッチングコストは有意で、その大きさはネットワーク外部性を上回るが、それでも技術革新で対抗できないほどの大きさではない。全体としてルータ市場では競争政策を発動する必要性は乏しいと考えられる。 以上をまとめると競争政策上の問題が発生しうるのは、パソコンのOS市場だけとなる。 この結果が妥当であるかはアンケート調査とヒアリング調査でも裏付けられた。すなわちIP電話とルータの市場では競争の困難さを訴えることはあまり無いが、OS市場ではライバル企業は最初から競争をあきらめてしまっている。この推定方法は、業界の人々が直感的に持っている予想に適合しており、それなりの妥当性を持っていると考えられる。
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