2006 Fiscal Year Annual Research Report
単一分子分光による光合成アンテナ複合体の構造ゆらぎの研究
Project/Area Number |
16340121
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
松下 道雄 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 助教授 (80260032)
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Keywords | 光合成 / アンテナ複合体 / LH12 / 単一分子分光 |
Research Abstract |
タンパク質の立体構造は、たとえX線結晶構造が決定されても原子レベルで見ると互いに異なる無数の安定構造を持つ。異なる安定構造間のポテンシャル障壁は室温の熱エネルギーに比べて十分低い。従って、タンパク質は熱運動として安定構造間の障壁を乗り越え、絶えずその立体構造を変化させている。通常のアンサンブル測定では安定構造間を渡り歩いている無数のタンパク質を一度に観測するので、平均構造しか分からない。ところがタンパク質が例えば酵素としてある化学反応を促進するとき、酵素が結合した反応物質がまさに反応しようとする瞬間に酵素がアドのような構造をとっているかが反応の成否を決めている。このため、タンパク質の機能を理解するには瞬間瞬間に取り得る安定構造がどのようなものであるのかを知らなければならない。我々は個々の安定構造を最も直接的に調べる実験として、低温下で熱運動を抑え、構造が固定されたタンパク質を一個一個分光測定するという低温の単一分光の手法を光合成アンテナ複合体について展開してきた。 まず、液体ヘリウム温度で一個の分子が放つ光を出来るだけ効率よく捉えて検出するために、一体成型の反射対物レンズを開発した。このレンズは一体成型なので低温に冷やしてもミラー間の相対配置がずれず、室温での結像能を維持し、また反射光学系を採用しているので色収差が殆どない。液体ヘリウム温度で波長400nm〜800nmの可視全域で使える焦点距離f=4mm、開口数n.a.=0.60のレンズを製作した(Fujiyoshi et al. Opt.Comm.投稿中)。 光合成アンテナ複合体であるLH2について以下の二つの研究を行った。 LH2全体に拡がる光励起であるB850帯と呼ばれる吸収帯を使った単一分子分光により、LH2の構造が界面活性剤ミセル中と脂質二重膜中とでは異なり、天然の環境である脂質膜中でより円に近く、また脂質膜中の方が光酸化による退色をより受けにくいことが分かった(Uchiyama et al. J.Phys.Chem.B投稿準備中)。 LH2に含まれるクロロフィル分子の光励起であるB800帯と呼ばれる吸収帯を使った単一分子分光により、液体ヘリウム温度でも起こっている数十秒に一回程度の構造変化について、その温度依存性の測定結果からポテンシャル障壁の高さは数K〜数十Kと一桁をまたがる分布を持つことが分かった(Oikawa ettal. J.Am.Chem.Soc.投稿準備中)。
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