Research Abstract |
(1)S-行列電子波束計算法の開発とその応用 アト秒パルスなど超短パルスによる時間分解光電子(運動量・角度分解)スペクトルの理論を構築するため,束縛電子ダイナミクスを扱える電子波束計算法と強光子場多体S行列理論を融合させた。束縛電子系の記述には量子化学で使われるGauss関数基底を使っている。まず,本手法をH_2^+に適用し,電子波束厳密grid計算法で得られた強い光による増強イオン化(光強度I>10^<13>W/cm^2,波長800nmの光に対して,平衡核間距離の2,3倍程度の核間距離でトンネルイオン化が促進される現象)を高精度で再現することを確認した。また,この新たに開発した手法を水素分子の光電子スペクトルの計算に適用し,Above Threshold Ionization(イオン化の閾値を越えても光子を吸収する現象)に対応する光電子ピークの再現に成功した。本手法では,電子相関も適切に考慮することができる。 (2)強レーザー場中のエタノール分子ダイナミクス 開発してきた時間依存断熱状態法(束縛状態に対する電子波束計算法)をエタノールに適用し,レーザー光による選択解離に及ぼすC-O-H変角振動とC-O結合伸縮振動間の結合効果を調べ,強レーザー場によって振動モード間の結合の様子が大きく変わりうることを示した。また,高励起電子状態まで組み込んで,各電子状態のレーザー場中での分布数変化を調べた。基底状態の分布数が大きく減少する核間距離の存在が明らかになった。この距離は増強イオン化に対応している。 (3)非解離性C_<60>多価カチオン生成の機構解明 C_<60>が長波長(λ〜1800nm)高強度超短パルス(〜70fs)と相互作用すると,+12価までの安定なC_<60>多価親カチオンだけが生成すことがP.Corkumらによって報告された。まず,密度汎関数法による電子状態計算によって,イオン化に伴ってカチオンが得る余剰分子振動エネルギーが極めて小さく,+12価まで解離が起こり難いことを示した。また,レーザー場から得るエネルギーは解離に使われていないことを示した。また,λ〜800nm励起光の場合,励起状態への移行が起こり,そこからの解離障壁はレーザー電場によって数eV以上低くなる。これは,C_<60>の中を電子密度が光の周期に応じて大きく変化するためである。
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