Research Abstract |
3,4-ジ-t-ブチルチオフェン1-オキシド(1)とジメチルアセチレンジカルボキシラート(DMAD)のDiels-Alder反応は室温で進行し,付加体(2)を経由して,一酸化硫黄を放出してフタル酸エステル(3)を高収率で生成する.一酸化硫黄を捕捉するため,鎖状ジエンである2,3-ジメチルブタジエン,2,3-ジメチルブタジエン,2-メチルブタジエン,1,2-ジ(メチレン)シクロペンタン,および1,2-ジ(メチレン)シクロヘキサン存在下,1とDMADの反応を行うと対応する2,5-ジヒドロチオフェン 1-オキシドが中程度の収率で得られた.一酸化硫黄のジエンへの環化付加の立体化学を考察するため,環状ジエンである1,3-シクロヘキサジエン存在下に1とDMADの反応を行うと,68%の収率で[1+4]環化付加物である7-チアビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン 7-exo-オキシド(4)が得られた.化合物(4)は,一酸化硫黄がジエン部分に逆方向から反応したことに基づくexo-型[1+4]環化付加物である.1,3-シクロヘプタジエン(5)や1,3-シクロオクタジエン(6)などの環状ジエン,シクロヘプタトリエン(7),およびシクロオクタテトラエン(8)存在下に同条件下で反応を行った場合にも,4と同様,対応するexo-型[1+4]環化付加物を生成した.一酸化硫黄と5-8のexo-型およびendo-型[1+4]環化付加物の構造を密度汎関数計算で求めると,いずれの場合もexo-型付加物の方がendo-型付加物よりも熱力学的に安定であることがわかった.ジエンのない条件下でDMADと3モル等量の1の反応を行うと,5,6-ジ-t-ブチル-2,3,7-トリチアビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン2,2,7-トリオキシドが生成した.これは一酸化硫黄が反応中で2量化して二酸化二硫黄が生成し,これが1にDiels-Alder反応して生成したと考えられる.
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