Research Abstract |
平成18年度は,下記に示すような成果を得た。また,3年間の研究の総まとめを行った。 1)官能基間距離固定化法による選択的分子認識部位の創製 本課題に関しては,疑似鋳型分子の選択肢を広げることで,正負両方の荷電を分子中に有する親水性毒物(たとえばシリンドロスパモプシン)に対する選択的分子認識部位の構築をさらに高度にすることが可能となった。このことを利用して,シリンドロスパモプシンを捕捉すると同時に,さらには,効率的に分離分析する手法の確立を達成することができた。ただ,サキシトシキン等のその他のアオコ毒物に関しては,アオコ株の入手,培養を含めて,試薬としても,その入手が極めて困難であり,現状,分子モデルを基とした疑似鋳型設定と分子鋳型作成に止まっているが,来年度,これら試料の入手が見込めることから,本研究の成果をさらに発展させるべく,今後もさらに検討を加えていきたいと考えている。 2)選択的吸着媒体を用いた環境試料の分析,対象物質の濃縮とシステム化 本課題に関しては,上記1)で示した選択的分子認識部位を有する分子鋳型だけではなく,新たに高性能な高分子共連続体カラムの開発に成功し,従来には見られない高性能,かつ,省廃液の分析システムの開発に成功した。また,上記1)の成果である分子鋳型は従来の粒子として作成するには問題が無いが,一方で実環境での使用を考慮した場合には,粒子では全く歯が立たず,より通水性の良い分離媒体(フォーマット)が必要である,という結論を得た。このことを基に,検討を進めた結果,粒子状分子鋳型を発泡樹脂に混入,樹脂表面に効率的に粒子を露出させる手法の開発に成功し,1)で得られた知見をそのまま実環境に応用できる方法を見いだした。 3)生分解性吸着媒体の開発と実用化 本課題に関しては,上記2)とも関連するが,選択的吸着部位を有する生分解性吸着媒体を実環境で用いて,これに硝酸イオンなどの富栄養化成分のもととされる要素を捕捉し,樹脂ごと土壌に鋤混むことで,過剰肥料散布が主原因とされる環境水(特に地下水)の硝酸汚染を,その元である肥料として還元することを試みた。コマツナを用いた栽培実験において,硝酸イオンを吸着した生分解性樹脂は顕著な生育促進効果を示し,参照に用いた単なるイオン交換樹脂とは異なる肥料効果の遅延効果をもたらした。このことは,生分解性樹脂が土壌中で分解することによる,樹脂成分中の窒素源が土壌に還元されたものと考えられる。これらの成果により,一連の研究が連結し,アオコ毒の評価,ならびに,その発生源の低減(水環境浄化)が達成できたものと考えている。関係諸氏に感謝致したい。
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