Research Abstract |
材料破壊の基礎となる破壊物理の進展を目指すと伴に,それに基づき,結晶性シリコンの加工性向上を目標として,透過電顕法,原子間力顕微鏡法,赤外光弾性法等の実験的手法を用い,クラック先端塑性域を解析するとともに,「クラック-転位相互作用」理論に基づき,クラック先端塑性域のメゾスケール・ダイナミクスシミュレーションを行なった.本年度は特に,シリコン結晶の加工性に影響を及ぼす,溶質原子,酸素析出物,そして変形速度について研究を行った.まず,溶質原子の効果については,ボロン添加した試料と無添加試料とで,その脆性-延性遷移(BDT)温度への影響を調べた.その結果,ボロン添加によりBDT温度の上昇が確認された.また変形速度を変化させ,脆性-延性遷移を律速する過程の活性化エネルギーを求めたところ,ボロン無添加試料では1.9eVとなり,従来,シリコン結晶中の転位移動の活性化エネルギーと良い一致を見せた.さらにボロン添加試料についてもBDTに関わる活性化エネルギーを求めたところ,2.5eVという値を得た.これは転位運動に際してボロンとの相互作用の結果と考えられる.これらの結果は,クラック先端から転位生成・運動モデルに基づくシミュレーションによりほぼ再現できた.これは,モデルの妥当性を立証するとともに,今後,シリコンの加工性を予測する上で,重要な手段となることを示唆している.次に,酸素析出物のBDTへの効果についても計測した.酸素析出物の存在は,応力状態が低いときには転位生成源となり,細かなすべり変形の原因となる一方,高応力状態では,逆に転位運動の抵抗となって,すべり変形を阻害する.その結果,BDT挙動に対しては,応力集中部での塑性緩和を阻害し,破壊靭性値を低下させてしまう.このような過程は,酸素析出物を多く含む試料を高温で塑性変形させた後の透過電子顕微鏡観察によっても確認された,
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