| Research Abstract |
中心対称がなければ結晶にはポラリティー,キラリティーが存在する.ポラリティーのある結晶では一般に正負の方向で物理的,化学的性質が異なり,電気伝導や結晶成長挙動に差が生じ,キラリティーのある結晶では鏡像異性体で生理活性が異なり,その識別は材料工学の立場から非常に重要である.本研究では,ポラリティー,キラリティー識別のための新しいナノ・スケール電子回折法の学理を確立し,より簡便にこの識別ができる条件を理論的に解明するとともに,材料工学の立場からオプトエレクトロニクス材料や医薬品関連分子性結晶への応用を図りその実証を行うことを本研究の目的とする.基本的な方法は,1枚の電子回折図形に多数のバイフット対反射を位置に関して対称的に観察し,当該バイフット対反射の強度非対称を利用してポラリティー,キラリティーを決定する.バイフット対反射は中心対称を持たない結晶に対して定義され,どんなhkl反射がバイフット対反射となるかは結晶点群に依存するため,バイフット対反射を対称的に観察できる電子線の入射方向も結晶点群に依存する.この解析の結果,すべての結晶点群について適切な電子線の入射方向があり,原理的には,結晶学で許されるポラリティー,キラリティーを持ちうるすべての結晶についてその識別ができることが分った.バイフット対反射に強度非対称が現れる原因は,電子回折における多重散乱であることを解明し,具体的にどのバイフット対反射にどのような強度非対称が現れるかは,簡単な振幅-位相図から予測することができ,加速電圧が高いほど,また,試料厚さが薄い(消衰距離まで)ほどより明瞭に強度非対称が現れる.最も重要な応用分野である医薬品関連の有機結晶に本方法を応用するために,薄騰試料のクライオ作製法,試料ステージのピエゾ駆動などの開発も行った.
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