2006 Fiscal Year Annual Research Report
水界の硫黄循環システムと微生物群集の共進化に関する分子生態学的研究
Project/Area Number |
16370014
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
福井 学 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60305414)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小島 久弥 北海道大学, 低温科学研究所, 助手 (70400009)
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Keywords | 硫黄 / 系統進化 / 分子生態 / 高温 / 微生物 / 硫酸還元 / 硫黄酸化 / 機能遺伝子 |
Research Abstract |
光が存在する水界の硫黄循環に関与する微生物の起原を探索するため、いくつかの高温環境下に生息する微生物群集の分子生態学的解析を行った。標的とした遺伝子は、微生物学的硫酸還元の基幹酵素であるアデニール硫酸還元酵素(APS)をコードする遺伝子および系統学遺伝子のスモールサブユニットリボゾームRNA遺伝子(ssuRNA)である。環境中から直接核酸を抽出し、抽出核酸DNAを鋳型としてプライマーを用いてPCR増幅を行った。増幅産物を変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)により、微生物群集構造解析を行い、構成微生物の系統解析を行った。機能遺伝子に関しては、クローニング法により解析を行った。陸上硫黄泉である中部山岳地帯中房温泉(長野県)には、中程度の高温環境(60-65℃)でベージュ〜ピンク色を呈した高密度微生物マットが形成されていた。現場培養及び室内実験の結果、光存在下でマット内部硫黄サイクルが成立していることが明らかとなった。系統遺伝子ssu rDNAの塩基配列結果から、マット内では好熱性硫酸還元菌であるThermodesulfobacterium用微生物、好熱性硫黄酸化細菌であるSulfurihydrogenium様微生物、そして好熱性光合成細菌Chloroflexus様微生物(原始的光合成細菌)が検出された。これらの結果から、3者のグループの微生物が、光が存在する高温環境で発達する微生物マット内で硫黄の酸化と還元に寄与していることが明らかとなった。Thermodesulfobacterium、Sulfurihydrogenium、そしてChloroflexusは系統進化上、生命の共通祖先が誕生してから早い時期に出現した系統群であることが知られている。以上のことから、硫黄をめぐる上記3者の相互作用は、光を生物が利用した始めた頃の地球の生態系をモデルとして考えられた。
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