Research Abstract |
私たちがM-Ras結合蛋白質として同定したDA-Raf1は,A-Rafの新規スプライシングアイソフォームで,A-RafのRas結合部位をもっているが,キナーゼ部位を欠損している.この構造から推定されるように,DA-Raf1はRasとM-Rasに結合して,下流のERKカスケード(B-Raf-MEK-ERK)を阻害することにより,Rafの内在性のドミナントネガティブ体として作用した.この機構により,DA-Raf1はv-K-RasによるNIH3T3細胞のトランスフォーメーションとそれを移植したヌードマウスにおける腫瘍形成を著しく抑制した.したがってDA-Raf1は新規のがん抑制遺伝子として機能している可能性が考えられる. 一方,骨格筋細胞分化においては,Ras-ERKカスケードは筋特異的転写因子myogeninの発現を阻害することにより,骨格筋細胞分化を抑制する.マウスC2C12骨格筋細胞の分化の過程では,DA-Raf1の発現が顕著に誘導された.またDA-Raf1を過剰発現させたC2C12細胞では,増殖の停止,myogeninや後期筋特異的遺伝子の発現,および細胞融合による筋管細胞形成が促進された.一方,DA-Raf1のRNAiにより,増殖の停止,筋特異的遺伝子の発現,および細胞融合が顕著に抑制された.したがってDA-Raf1はRas-ERKカスケードに拮抗して,骨格筋細胞分化に不可欠な役割をになっていることが示された. またアポトーシスにおいては,Ras-ERKカスケードによって活性化されたRSKがBadのSer112をリン酸化することにより,アポトーシスを阻害する.COS-1細胞にDA-Raf1を過剰発現させると,アポトーシスが誘導された.DA-Raf1を過剰発現させた細胞ではBadのSer112のリン酸化抑制と,caspase-3の活性化がみられた.一方,血清飢餓条件下においたNIH3T3細胞ではアポトーシスが誘導されるが,この条件下でDA-Raf1の発現量が顕著に増大した.またBadのSer112のリン酸化抑制と,caspase-3の活性化がみられた.これらの結果から,血清飢餓条件下におけるDA-Raf1の発現上昇が,Ras-ERKカスケード阻害によるBadのリン酸化抑制を介して,アポトーシスを誘導するものと考えられる.
|