Research Abstract |
広範な種子繁殖植物に見られる自家不和合性は,自家受粉によってもたらされる近親交配の遺伝的弊害を回避する機構であり,雌蕊における自家花粉と他家花粉との自他認識反応の結果,自家花粉の受精が抑制される性質である.サツマイモを含むIpomoea属植物は胞子体型自家不和合性を有しており,この性質は単一遺伝子座(S遺伝子座)の複対立遺伝子によって支配されている.本研究は,S遺伝子座にコードされている遺伝子を解析し,自家不和合性の分子遺伝学的機構を明らかにすることを目的としている.これまでに,S遺伝子座領域をカバーするゲノムクローンの塩基配列(約300kbp)の解析と遺伝子発現解析から,雌蕊や雄蕊でそれぞれ特異的に発現する数種類のS遺伝子候補を同定した.本年度の研究では,これらS遺伝子候補についてさらに詳細な解析を行った.その結果,1.S遺伝子座近辺の組換え体を用いて組換え点を決定することにより,S遺伝子座の物理的範囲は約200kbの範囲に狭められた.2.このゲノム領域内には,3種類の柱頭特異的発現遺伝子(SE-1,-2,-A)と3種類の葯・花粉特異的発現遺伝子(AB-1,-2,-3)が存在することが明らかになった.3.柱頭特異的遺伝子(SE-2,SE-A)は,選択的スプライシングにより2〜3種類の転写産物が作られていると推定された.4.SE-1遺伝子のRNAiコンストラクトを導入した形質転換体では自家不和合性形質の変化が認められなかったことから,SE-1が自家不和合性の自他認識反応に関与している可能性は低いと推察された.5.葯・花粉特異的遺伝子のうち,AB-2ではS遺伝子ホモ型個体間で塩基配列の多型性が認められたことから,AB-2遺伝子は有力なS遺伝子候補であることが明らかになった.今後,他のS遺伝子候補を導入した形質転換体についても詳細な解析を行う予定である.
|