Research Abstract |
18年度に引き続き,神奈川県長井沿岸において,暖流系大型アワビ類の産卵期に流動環境の観測と浮遊幼生調査を合わせて行い,親貝分布域からの浮遊幼生の分散範囲とその過程について検討を行った。また,北海道忍路湾において,エゾアワビを対象にして同様の調査を実施した。その結果,両調査地点ともに,禁漁区内に存在する親貝の高密度分布域で発生した浮遊幼生の大部分が保護区外に分散し,保護区内に着底するものは少ないと考えられた。保護区内に着底する幼生の多くは,保護区外から移送されてきたものであり,再生産のしくみを明らかにするためには,親貝の生息場所とそこで発生した幼生の分散範囲,着底場との関係を解明することが重要であることがあらためて示された。 これまでの4年間の研究により,1990年代からエゾアワビの天然稚貝発生量が増加し始めた主要因は,それ以前には比較的低く推移していた冬期の水温が上昇したことにより,稚貝の減耗率が著しく減少したことにあることが明らかとなった。しかし,低水温による影響を受けるのは,発生から数ヶ月経って殻長3-7mmに成長した稚貝であり,その年の新規加入量はそれ以前に初期稚貝の発生密度や減耗の程度に左右されることがわかった。エゾアワビの生息域では,初期稚貝の発生と生残を保証することのできる親貝密度を持つ場所が残されていたことが稚貝発生量の増加に結びついたと考えられる。それに対して,依然として天然発生量が低迷している暖流系大型アワビ類については,幼生の着底環境や稚貝の生息環境の悪化がその一因であることが示唆されたが,エゾアワビに比べて親貝の分布密度が低く,特に高密度分布域が非常に少ないことが主要因と考えられた。同所的に生息するトコブシの天然発生が継続しているのは,大型種に比べれば親貝の密度が高いことに加え,大型種とは異なる繁殖生態,初期生態を持つためであることが明らかとなった。
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