Research Abstract |
動脈硬化においてはマクロファージの浸潤の血管壁への浸潤や血管内皮細胞の遊走,血管平滑筋細胞の形質転換,肥大が生じ,新生内膜の形成や新生血管の発達,凝固亢進などの病的反応により病変が進展する.その機構には未だ不明な点が多いが,肥厚組織内の低潅流により動脈硬化巣においても組織内の酸素分圧が低下することが知られており,動脈硬化巣の構成細胞での低酸素状態は,新生血管の発達や凝固亢進の重要な因子であることが予想される.本研究では血管平滑筋細胞においてミトコンドリアの機能が活性化され活性酸素種が産生されるか,低酸素反応性遺伝子であるPAI-1やVEGFなどの遺伝子,あるいは低酸素依存性転写因子であるHIF-1α蛋白の,低酸素による発現誘導に活性酸素種またはチロシンキナーゼ依存的なシグナル伝達経路が重要であるかを検討した. 低酸素刺激で血管平滑筋細胞内にスーパーオキシド,過酸化水素が増加した.低酸素刺激によるPAI-1遺伝子,HIF-1α蛋白の誘導はSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害薬であるPP1と,カタラーゼなどの抗酸化剤によって有意に低下したが,MAPキナーゼやプロテインキナーゼCの阻害薬では低下しないことから,血管平滑筋細胞におけるPAI-1遺伝子,HIF-1α蛋白の低酸素による誘導はSrcファミリーチロシンキナーゼの活性化と活性酸素種の産生を介することが明らかとなった.低酸素によりc-Srcの活性化が見られるかをc-Srcの自己リン酸化部位の活性化を認識する抗体(PY418)を用いてウェスタンブロットを行うと,低酸素15分でc-Srcのリン酸化が見られ,このリン酸化は抗酸化剤でで阻害された.このことから血管平滑筋細胞において低酸素によりc-Srcが活性化されること,またその活性化は活性酸素種の産生を介することが明らかとなった.また,ミトコンドリア阻害薬で,低酸素における過酸化水素の産生,PAI-1遺伝子の誘導,またHIF-1α蛋白の誘導が抑制されたことから,低酸素によるシグナル伝達経路にはミトコンドリア由来の活性酸素種が重要であることが明らかとなった.低酸素刺激でミトコンドリアcomplex I,IIIの活性が有意に増加したことから,血管平滑筋細胞での活性酸素の産生源としてミトコンドリアが重要であることが明らかとなった.ミトコンドリアが低酸素の感知装置であり,活性酸素の産生源であることの発見の意義は大きい.
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