Research Abstract |
本年度は,口腔関連QOLの指標として世界的に広く用いられているOral Health Impact Profile(OHIP)-14(Slade GD,1997)の日本語版を用いて,咀嚼能率とOHIP-14との関連について検討を行った. 調査対象者は,60歳以上の高齢者588名(男性333名,女性255名,平均年齢66.2±4.2歳)とした.調査項目は,質問票を用いた調査,口腔内検診,検査用グミゼリーを用いた咀嚼能率ならびに咬合力検査とした.口腔関連QOLの低下を示すOHIP-14スコアの上位25%をカットオフ値として対象者を2群化し,それを目的変数とした変数増加法によるロジスティック回帰分析を行った.有意水準はいずれも5%とした. 対象者のOHIP-14スコアの平均値は,11.3(SD:8.3),中央値は11であった.OHIP-14スコアは,健康状態の自己評価,経済状態の満足度,残存歯数,咬合支持域,食事中の口腔乾燥感に加え,咀嚼能率ならびに咬合力との間に有意な関連がみられた.しかし,年齢や性別との間には有意な関連はみられなかった. 咀嚼能率とOHIP-14の各項目との間には,機能の制限,身体的障害,心理的障害で2問ともに有意な関連がみられたが,社会的障害,ハンディキャップでは2問ともに有意な関連はみられなかった. ロジスティック回帰分析の結果,OHIP-14スコアは,経済状態の満足度,食事中の口腔乾燥感,咬合支持域ならびに咀嚼能率との間に有意な関連がみられた. 以上の結果より,口腔関連QOLは,社会・経済的背景や全身的健康状態,さらに歯の状態の影響を除いた上でも,咀嚼能率と有意な関連があることが明らかとなった.したがって,歯科医療が高齢者のQOLの向上に貢献するためには,咀嚼能率の維持・向上が最も重要であることが示唆された.
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