Research Abstract |
テル,セクル,アル,アヘイマル遺跡は北メソポタミア,シリア東北部ハブール平原に位置する。この遺跡について4次にわたる発掘調査,地理学的調査を実施し,採集した標本の解析,年代測定などをおこなった。主な活動,成果は以下のとおりである。 (1)最下層において北メソポタミア最古期の農耕牧畜村落の物質文化を明らかにした。それが南東アナトリア先土器新石器時代に類似することは2000-2003年の調査で推定されていたことであるが,分析をすすめたところ,石器製作技術などにおいて,ザグロス方面すなわち西アジア東部の文化伝統を継承していることも判明した。当地の初期農耕村落は最初期から西アジア西部であるレヴァント地方とは異なった集団によって設営されたものと考えられる。 (2)北メソポタミア最古の土器を技術形態学的,年代学的に細かく定義することができた。当遺跡で出土した最古の土器は従来知られていたプロト,ハッスーナ式のような植物混和土器ではなく,鉱物混和の新式土器であった。それを先プロト,ハッスーナ式と命名した。放射性炭素年代によれば,紀元前6900年頃に発生し6500年頃にプロト,ハッスーナ式に移行することがわかった。 (3)近接するハブール川の水位,段丘の変遷,さらにボーリング調査による古気候復元を実施した。その結果,紀元前7千年紀に気候変動ががあったことが推察され,それが,同時期におこったプロト,ハッスーナ式文化の興隆,衰退の一つの要因ではないかとの見通しが得られた。 (4)なお,紀元前7000年頃の先土器新石器時代末の文化層から,西アジア新石器時代最大級の完存女性土偶が得られた。造形の精巧さは類例をもたない傑作であり,シリア政府の許可を得て借用し,東京,岡山で展覧会を開催したほか(徹底的な分析を加えた。その結果,紀元前6500年頃イラク,中部メソポタミアで流行する女性像の先駆形ではないかと推察された。すなわち,造形という点でもテル,セクル,アル,アヘイマル集落が北メソポタミア農耕文化の起源地の一つであろうとの考えが支持された。
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