2006 Fiscal Year Annual Research Report
壁際廃屋葬の研究:西アジアにおける遊牧的適応の成立過程
Project/Area Number |
16401015
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
藤井 純夫 金沢大学, 文学部, 教授 (90238527)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三宅 裕 筑波大学, 人文社会科学研究科, 助教授 (60261749)
本郷 一美 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助教授 (20303919)
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Keywords | 壁際廃屋葬 / 西アジア / 遊牧民 / 墓制 / 新石器文化 |
Research Abstract |
本研究のねらいは、生活の痕跡を残さないために考古学的な追跡が困難と言われてきた初期遊牧民の成立過程を、彼らの残した唯一の手がかりである墓制面から追跡することにある。 昨年度に引き続き、ヨルダン南部のジャフル盆地で確認された先土器新石器文化Bの移牧拠点、ワディ・アブ・トレイハ遺跡(Wadi Abu Tulayha)を発掘調査した。本年度は、東区の発掘を実施した。その結果、1)この小型線状集落を構成する複数の建築複合体は一度に構築されたものではなく、東から西へ、順次廃絶・更新されたこと、2)そうした廃絶・更新サイクルの契機となったのが、壁際廃屋葬(家屋壁面におそらくは家長を埋葬し、これによってその家屋を廃絶すると共に、隣接地に新たな家長の家屋を設けるという、特異な葬制)であること、3)移牧拠点で行われていたこの壁際廃屋葬の形骸化したものが、初期遊牧民に固有の擬住居ケルン墓にほかならないこと、4)よって、ジャフル盆地遊牧化の過程は、移牧拠点の壁際廃屋葬から初期遊牧民の擬住居ケルン墓葬への変遷という形で正確に追尾できること、などの事実が再確認された。 なお、この移牧拠点では、石積みの小型ダムを用いた小規模な貯留式灌漑農耕が実施されていたことも判明した。このことは、周辺ステップ地帯への適応には、農耕をも含めた複合的な生業形態が伴っていたことを示唆している。移牧先でのそうした簡易農耕が乾燥化によって衰退しために、それを切り捨てた新たな生業形態、つまり遊牧が起源したと考えられる。このような新たな見通しを得たことも、今年度の成果の一つである。
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Research Products
(6 results)