Research Abstract |
旧ソ連のセミパラチンスク核実験場周辺の住民被曝の特徴は,大気および地上核実験からの放射性降下物によって長期低線量率被曝で外部被曝(40-300cSv:1949-1992年間の総被曝線量)に加えてかなりの内部被曝(40-300cSv)を受けていることである。外部被曝は,数学的モデル計算,レンガを用いたTL測定法である程度評価が可能であるが,内部被曝については評価が困難であり,人体試料の測定がモデルの検証のためにも必須となっている。 本所究では,数年前から核実験周辺で亡くなられた方の人体組織を収集し残留放射能,特にSr-90,Pu-239,240,U同位体などの放射性核種の測定とデーターの蓄積を図ってきた。今年度は以下のことを明らかにした。 1)これまでにセミパラチンスク市を中心に収集した人骨(主に脊髄),約80試料(30〜86才,平均60±13才)についてPu-239,240およびU-238,234を測定した。Pu-239,240およびU-238平均濃度は,それぞれ0.050±0.041mBq/g-ash,0.28±0.13mBq/g-ash(22.8±10.6μg U/kg-ash)であった。 2)Puレベルは,Global falloutで汚染されたイギリス,ドイツ,アメリカ,日本の一般住民に対して1980年代に見出されてきた濃度の範囲内であった。セミパラチンスク核実験場周辺は,原爆級Pu濃度で日本と比べて数十〜数百倍高く汚染されているが,大部分のPuは融解したシリカや原爆材料物質に強固の取り込まれている。このことが,食品や人体への移行を低くしている主因であると考える。暫定値ではあるが,Puの被曝がすべて吸引によると仮定〔1955年に一度吸入〕すると40年間での実効線量当量は0.2mSv程度と試算された。 3)Uの源は,同位体測定から原爆起源ではなくてすべて天然由来であることが判明した。骨のU濃度は,報告されているイギリス人の値とほぼ等しく,アメリカ人や日本人の約10倍高濃度であった。この高い濃度は,この地域の飲料水の高いU濃度に原因していると考えられる。経口でU(U-238,235,234)を摂取すると仮定すると,60年間での実効線量当量は0.1mSv程度と推定された。 4)今回用いた試料の大部分は,慢性疾患や癌で亡くなられた方から提供されたものなので,今後は,事故などの突然死からの試料をもちいて,さらにデーターを蓄積する必要がある。Sr-90測定は,次年度計画している。
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