Research Abstract |
前年度までに,現地の農業ランドスケープにおける持続的な農林業生態系を維持するためには,伝統的なアグロフォレストリーシステムであるタルン(talun)の役割が重要であることが指摘された。そこで,本年度はタルンの現状を把握する調査を実施した。 インドネシア西ジャワ州に卓越する,火山体に続くラハール・ラバ由来の台地上に位置する集落では,蔬菜栽培に適した気候・土壌条件のもとで,20年以上前からタルンの多くは商品作物耕作地へ転換されてきたことが明らかとなった。そのため,現存するタルンの面積は集落域の数%と非常に限られており,ラハール台地開析谷斜面に残存するのみであった。構成種はタケ類を中心に建築材用の樹種が多く,粗放的な管理でありながらも市場価値の高い樹種を選択的に育成していることが明らかとなった。こうした伝統的なアグロフォレストの商業化は,ホームガーデンの形態・機能変化でもみられ,現時点では植生の多層構造などは維持されていたものの,ホームガーデンが有する社会・文化的機能の低下が認められた。一方,火山山地の外縁に位置する丘陵地では,地形的制限要因から灌漑用水の開発が困難で,標高が低いために集約的な商品作物の栽培に適さない気候条件であることから,タルンを中心とした営農形態が維持されていることが明らかとなった。しかし,タルンの構成樹種や利用形態は,伝統的なタケ類を中心とした耕作地-タケ林転換システム(kebun-talunシステム)だけではなく,今日の農家経営状況に応じて,建築材や香料材の単一樹種が優占するプランテーション化したタルンから,多くの果樹から構成され,生産物の自家消費が中心のタルンまで,多様化していることが,植生調査と聞き取り調査の結果から示された。 こうした多様化したタルンの中から,生態的機能と社会・経済的機能を兼ね備えた形態を抽出するために,典型的なタルンを複数抽出し,いくつかの機能に関する比較調査を開始した。土壌侵食量の測定を行った結果,林冠の樹種や階層構造の複雑さ以上に草本層と落葉・腐植層の有無が重要であり,過度な林床の利用は,多くの土壌流亡の原因となることが指摘された。また,商品価値の高い樹種の割合が増えるとともに,当然ながら構成種の多様性は著しく低下し,生産物の自家消費率や近隣への無償配布率も低下するとともに,第三者の薪材採取を禁じるなど,社会・文化的機能の損失が明らかとなった。一方で,果樹を中心に多様な樹種から構成され,その利用目的も多様,かつある程度の経済的価値も有している形態も存在することが明らかとなった。
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