Research Abstract |
現地の農業ランドスケープにおける持続的な農林業生態系を維持するために重要な役割を果たす,伝統的なアグロフォレストリーシステムであるタルン(talun)の,生態的,社会・経済的機能の評価を,最終年度として重点的に実施した。その評価を通じて,経済性と生態的持続可能性を兼ね備えた形態のタルンを抽出することを試みた。 調査地において,木本類から構成されるミックスタルンは,樹種構成が様々で,果樹などを中心とした樹種や利用目的が多様で,階層構造も複雑なタルンから,香辛料などに利用されるクローブなど換金性の高い樹種が著しく優占し,階層構造や種構成が単純なタルンが存在することがわかった。土壌に肥沃性維持に関わる養分循環過程を種構成の異なるタルンで比較した結果,階層構造が単純化した集約的なミックスタルンでは,木本類の立木密度が低いため,リター供給量が少ない傾向が確認できた。そのため,こうした集約化したミックスタルンでは,生産性の向上と地力維持をはかるため,化学肥料の投入も行われており,養分循環の観点から,外部資源に依存した形態となっていることが示された。また,水収支をみたところ,クローブの優占するタルンは,立木密度が小さいにもかかわらず,表次層まで土壌の乾燥化が著しく,過剰な土壌水の吸収が起こっていることが示された。つまり,換金性の高い樹種によっては,養分や水資源の収奪が著しく,本来のタルンが持つ生態的持続可能性が低下することが示唆された。 その他のミックスタルンでは,木本からのリター供給量に有意差があるものの,リターストック量に差はなく,林床のバイオマス生産量も,階層構造の単純化した林内の明るいタルンと同程度の高い水準にあった。すなわち,複雑な階層構造を持つタルンでも,林床の光環境は草本層の高い生産量を維持するのに十分で,林内空間の高度利用が可能であることが示唆された。ただし,落葉層や草本層を除去したタルンでは,土壌侵食量や表面流出量が増加する傾向も野外実験によって確認できたため,過度な林床利用は,水保全に関わる機能の低下が問題になると考えられた。 換金性の高い果樹や建材種から構成されるミックスタルンは,ある程度の経済性を維持しており,生態的機能も高い水準にあることが示され,持続可能なタルンの形態として,重要であることが示された。こうしたミックスタルンの普及が可能か,農民への意識調査を行ったところ,多くの農民が採用したい意志を示した。しかし,実際の採用には初期投資を問題視している意見も多く,質の良い品種の提供など,農業構造転換支援の制度的枠組みもあわせて必要であることが示された。
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