Research Abstract |
アジアのHIV流行は拡大を続け,日本,韓国,フィリピンの3カ国のみが低流行国として残された.フィリピンにHIV流行が始まれば,次は日本と想定される.そのため,日本のHIV流行阻止のためにはフィリピンのHIVの動向を知ることが必須と考え,当地にHIVに関する定点観測地の基盤整備を続けている.また,HIV流行の端緒が注射薬物の使用による血液媒介感染と考えられることから,HCVをHIV流行以前の血液媒介感染マーカーと位置づけている. 平成18年度終了時点で注射薬物使用者604症例とその他の対照を含め,合計1,548症例のエントリーを終了した.延べ1,593検体について血清検査が終了している.薬物離脱施設に属する注射薬物使用者集団,これに属さない集団ともに年次毎のHCV陽性率は高率かつ一定である.一方,HIV感染者はHCV感染高率集団にもごく稀(0.35%)である.このように,本年度までに血液媒介感染が頻発している定点観測地をセブ都市圏にほぼ確立した. セブ都市圏のHCV株のほとんどは,他国で報告された株と同一の群に属さない.域外から入る株の影響を打ち消す程に,既存の株が早く広がるものと考えている.一方,Genotype-2aには,明らかに複数のクラスターに分かれているものがある.いずれも2005年以降に検出されるようになった株であり,比較的最近この地域に侵入した可能性がある.しかし,国外の株のいずれも同一のクラスターに属さないため,新たに侵入する株と決定できない.別途,組換えHCVが見つかった.HCVの重感染がおこる程に,血液媒介感染を繰り返している集団が珍しくないことを示している. セブ地域を中心的な観測地としつつ,フィリピン全土の動向を広く知るためにマニラ首都圏,ミンダナオ地域の南に定点観測地を広げた.これら地域のHCV株はセブ地域の株と近縁であり,かつ相互に類似していたが,他国の株とは相同性が低い. 株の出所,侵入門戸,その後の拡がりの様式は,将来のHIVの動向を推定する要素になると期待している.
|