Research Abstract |
日本のHIV流行阻止のために,隣国フィリピンの流行阻止は重要であるが,低流行国で入手可能な少数のHIV解析に依存した流行の阻止は困難である.そこで,HIVが性行為感染者よりも先に注射薬物使用者(IDU)に流行の端緒が作られることに着目し,血液を媒介にIDUに侵入するHCVを代用マーカーとして「流行の核」を早期に発見する試みを始めた. ルソン,ビサヤ,ミンダナオの主要な都市圏に監視地域を得た。総検査数は,IDU由来1494検体を含む,2645検体に達した.HIV抗体陽性事例は3検体のみであり,フィリピンがHIVの低流行地域であることを裏付けた.しかし,注射薬物使用や透析によるHCV感染の頻度は高く,セブ都市圏の市街地居住のIDUにみられるHIV感染比率がわずかに0.40%であるのに比べ,抗HCV抗体陽性比率は89%である.また,HCV株(ルソン,48株;ビサヤ,366株,ミンダナオ,30株)について検討したところ,株の多様性は,マニラ首都圏を含むルソン地域に高く,特に,Subtype-1b(n=11),4(n=1),6(n=1)はこの地域にしかみられない.また,マニラ首都圏の株には,当地由来・その他の地域由来の何れの株よりも外国株に類似の株が存在する.このように,マニラ首都圏は,最も外国の影響を受けやすいことが示唆された。一方,系統樹解析から,Subtype-1a群には,上記3地域の株が混在しており,HCV株は3地域の間を短期間に移動していることも示唆された.ミンダナオの株(n=30)は全てSubtype-1aであり,多様性は低く,海路による南方からの血液媒介感染経路の存在は確認されていない. HIVがHCVと同様の経路で侵入・伝播すると仮定する場合,血液を媒介に流行するHIVは,マニラ首都圏から侵入し,短期間の内にセブ都市圏やミンダナオ地域に広がることが推測された.
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