2005 Fiscal Year Annual Research Report
統合失調症患者の「心の理論」と症状および対人関係障害に関する融合的研究
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16500163
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
井村 修 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (20176506)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石垣 琢磨 東京大学, 総合文化研究科, 助教授 (70323920)
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Keywords | 統合失調症 / 心の理論 / PANSS / 陽性症状 / 陰性症状 / 妄想観念 / 認知障害 / 神経心理学的テスト |
Research Abstract |
平成17年度の実績としては、21名の統合失調症患者と21名の健常成人を対象として、2種の「心の理論」課題(サリー&アン課題、絵画配列課題)と2種類の視点変換課題(模型条件、人形条件)、ストループテスト、ベイズ課題を実施するとともに、症状評価のためにPANSSを使用した。サリー&アン課題の第1試行では群間差はみられなかったが、第2試行ではPANSS得点高群と健常群の間に有意差がみられ、症状の重いものほど「心の理論」課題が困難であることがわかった。また絵画配列課題においても、PANSS得点高群がPANSS得点低群や健常群より、成績が有意に低く「心の理論」課題が困難であることが確認された。さらに「心の理論」課題の成績とPANSS得点との相関を検討すると、陰性尺度総合得点との負の相関が1%水準でみられ、「概念の統合障害」、「情動の平板化」、「情動的引きこもり」、「抽象的思考の困難」、「衒奇症と不自然な姿勢」、「失見当識」の項目に有意な負の相関がみられた。視点変換課題に関しては、模型条件では群間に有意な差はみられなかったが、人形条件では0°および180°において、患者群の方が健常者群より成績が低下していた。このことより他者視点球得の困難さは、統合失調症患者に存在すると考えられる。しかし人形条件のように複雑な刺激布置でないと明らかでなく、先行研究の結果とやや異なるものであった。ストループテストでは、PANSS高得点群と健常群の間に差がみられ、陰性症状との関連が強くみられた。ベイズ課題では群間に差はみられず、PANSSの得点とも有意な相関は得られなかった。 当初「心の理論」課題の成績は陽性症状、とりわけ妄想的な傾向と関連しているのではないかと予想していたが、今回のデータからは陰性症状との関連が示唆された。この原因のひとつに今回対象とした統合失調症患者が、比較的軽症の外来患者が中心であったこと、また薬物療法をすでに行っているため、陽性症状が顕著な患者が少なかったことなどが関連していると考えられる。今回の研究結果をまとめると、統合失調症患者の心の理論の障害は、思考に関する認知機能と周囲への関心と認識に関連していると言えるだろう。したがって心の理論の障害が、直接的に妄想的な思考を惹起し、対人関係障害生じさせるのではなく、認知障害と関連した陰性症状により、適切な判断や行動がとれないため、対人関係上の齟齬が生じてくるのではないか推測される。その結果として統合失調症患者は、被害的感情や妄想を抱くようになるのではなかろうか。しかし今回の研究では、まだサンプル数が少なく、また偏りがみられるので、より広範なデータを収集することを平成18年度の目標としたい。また統合失調症患者の基礎的障害と考えられる認知障害との関連性を検討するため、認知機能を測定する新たな神経心理学的テストも導入したい。
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Research Products
(1 results)