2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16500169
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
金野 秀敏 筑波大学, 大学院システム情報工学研究科, 教授 (20134207)
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Keywords | 脳波 / 痴呆発症リスク / 周波数変調 / 光刺激による引き込み / 非線形応答 / 一般化久保振動子 / パラメータ励振 |
Research Abstract |
今年度の研究計画は、揺らぎの数理手法に重点を置いた研究から、「提案手法の形式的な分別に関する有効性を納得させることのできる物理的かつ生理学的な根拠を示す研究」にシフトした。注目した脳波の特性は(A)脳波の周波数変調特性及び、(B)多重スケールエントロピーなどの特性が年齢とともにどのように変化するか、そして、痴呆が進行するとどのようになるかの2点である。脳機能の特定を明確にするための視覚刺激と体性感覚刺激の応答解析もあわせて試行した。若年健康成人の諸特性情報を得るために、九州大学医学部で脳波の測定し(10被験者)、現有の健常老人と痴呆老人脳波データの諸特性(72被験者)と比較した。その結果、(1)若年健康成人では閉眼安静時では後頭部、頭頂、前頭と頭部の位置に従って次第に周波数変調が大きくなることがわかった。(2)健常老人では、周波数変調強度の場所依存性は弱まり、痴呆老人に至っては周波数変調の分散(位相速度の分散)がさらに大きくなることが明確になった。すなわち、老化や痴呆の進行ともに生物学的揺らぎ(バイオノイズ)が大きくなり、スケールエントロピーにも有色雑音が印加されているような状況が生じて、エントロピーのスケールに対する勾配がゆるくなるシナリオが有望となった。脳波(EEG)では、体積伝導効果が反映するので、媒質の変性や不均質性により波の多重散乱が大きくなり生物学的揺らぎが頭部に広範にあらわれてくると推定される。結果の一部はISBME2006(タイ)及び21世紀の診断工学とその周辺(統計数理研究所)、第16回インテリジェント・システム・シンポジウム(東大)で発表した。周波数変調の確率分布は一般化コーシ分布になるが、有色雑音や非線形項の影響でどのように分布が歪むかについても数理解析と数値解析で解明した。結果はMathematical Methods in Reliability(MMR2007)で発表予定である。 九州大学医学部での脳波測定では、周期的光刺激による応答も周波数を変化させて測定した。文献によれば痴呆の被験者の場合には光刺激による引き込みはみられないという報告がある。若年健常成人の被験者の測定結果では、ほとんど全員の被験者で引き込み特性が観測されたばかりでなく、強い非線形応答(2次、3次の高調波)が現れ、相関関数もパルス的で周期2や周期3を持つ時間変動が観測された。閉眼安静時の特性は確率複素ギンスブルグ・ランダウ方程式でモデル化できたが、周期光刺激下での観測事実を説明できないことがわかった。そこで、このような非線形応答を説明できるような外力駆動振動子の模索を行ない、ランダムな周波数変調と周期的光刺激がパラメータ励振で入った一般化久保振動子モデルを構築した。このモデルは高次の非線形応答の出現を説明できるばかりでなく、引き込みが起こる光刺激強度にしきい値が存在する事実をも説明できる。この結果はSPIE2007,Fluctuation and Noise in Biological, Biophysical and Biomedical Systems(イタリア)で発表予定である。健常被験者のMEGの体性感覚刺激時のデータの応答にも強い非線形応答を確認した。上記の外力駆動久保振動子との関連を研究中である。安静閉眼時の情報では、脳機能の劣化の特定が困難であるので、外部刺激による応答解析は将来有望である。
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Research Products
(5 results)