Research Abstract |
プリズム順応を半側空間無視患者に対して実施し,無視症状の改善と順応の方法・持続性との関係について検討した.これまで,プリズム眼鏡を装用して行う到達運動の標的は,身体正面の1か所としていた.順応の成立については,上肢が見えないように板で覆って視界からさえぎり,正面の視標の方向を指さすstraight ahead pointingで検討した.この場合,順応が成立していれば,正面を見てその方向を示す位置が,順応後に順応前よりも左方へ偏倚する.本年度にプリズム順応を実施した半側空間無視患者では,順応後の無視症状の改善効果が少ない例が多く,その場合にstraight ahead pointingでみた順応が不十分な例が多かった.すなわち,順応直後に指示方向の左方へのずれがみられても,10回程度の繰り返しで指示方向が次第に正面に戻る場合があった.この原因として,順応の強度が不十分なのではないかと考えた. そこで,液晶タブレット上に,身体正面,左または右5度,左または右10度の5通りの位置に,ランダムな順番で1か所ずつ標的を出して到達運動を行う方法を試みた.この方法を用いると,少なくとも健常人は,1点を指し示す到達運動よりも安定した順応効果の持続を示した.到達運動の回数も50回から80回に増加させたが,単調な繰り返しによる集中力低下を避けるため標的の色を変えながら呈示することにした.Rossettiらの原法(1999)では,正面から右または左10度の位置を指ささせており,欧米のこれまでの報告のほとんどがこの方法に従っている.Rossettiとの私信で,必ずしもこの方法が最良とは考えておらず,指し示す位置は多い方が強固な順応につながるだろうという意見をもらった.次年度は,我々の新しい順応方法を半側空間無視患者に適応し,順応を確認しながら無視症状の改善効果を検討する予定である.
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