Research Abstract |
糖尿病への一次予防への関心が高まり,その重要性が強く認識されている.糖尿病に対する健康管理の費用は世界中で急増しており,本邦においても大きな医療経済上の問題になっている.生活習慣への介入は急速に西欧化した特定地域の住民に対して相応の効果を得たとされるが,糖尿病予備軍といわれる耐糖能障害や肥満者などハイリスク群を一定の方法で抽出し,分散的かつ広範な地域を網羅した形での介入研究は必ずしも費用対効用の面から効率的とはいえず,より地域基盤型の予防戦略が必要になってきている.つまり,啓発活動,健康教育,行動援助事業などを特定の職域に整備して長期的な支援のための新しい方法論を開発する必要性が出てきた.そこで,糖尿病ハイリスク群の事後指導についての具体的なシステムを構築し,事後指導の方法論と有効性を検証した.県下のS社K事業所(従業員1000人規模)をモデル事業の対象地区に設定し,毎年実施されている職域検診の受診者から,本研究用に作成した指導マニュアルに基づいて糖尿病ハイリスク者を抽出した.事後指導には,療養指導の具体的な手順,現場における生活習慣指導の実際,保健指導の提供場所などが含まれる.モデル事業の一環として,療養指導ガイドの作成,指導時に配布する冊子,受診者の理解を深めるためのリーフレット,ポスター,職域でのイントラネットの利用やイベント活動などを実施した.生活習慣を変容させ維持させるためのモデル事業として,療養指導ガイドを用いた個別指導,学習援助型を指向した集団予防教室,修正した生活習慣を長期間維持させるための個別栄養相談,産業医および産業看護師による個別面談サービス,職域でのイントラネットを応用した啓蒙活動,職域での集団運動教室などを整備した.職域検診でのハイリスク者に対して検診事後指導の強化と産業医・看護師による健康教育を実施した.さらに,介入群に対しては,管理栄養士による個別の栄養教育ならびに定期的な健康運動指導により,減量効果と糖尿病,高血圧,高脂血症に対するリスク低減効果を検討した.介入群においては有意の減量効果と血清脂質の改善が認められたが,非介入群では明らかな変化がみられなかった.
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