Research Abstract |
男子陸上長距離選手41名を対象に夏季準備期におけるスポーツ性貧血発現状況を調査するとともに,夏季ヘム鉄摂取が鉄欠乏性および溶血性貧血発現に対する効果を検討した.対象選手は5月から7月までの2ヶ月間は個人の自由意志により鉄剤を摂取した鉄剤摂取群(26名)と非摂取群(N群,15名)に分けた.さらに鉄剤摂取群は1日あたり鉄7mg相当量の鉄剤を朝食と夕食の2回に分けて摂取させた.このとき,鉄剤は2種類を使用し,ヘム鉄を摂取したヘム鉄摂取群(H群,13名)とクエン酸鉄を摂取したクエン酸鉄摂取群(C群,13名)に分けた.ヘム鉄は豚血液より精製された市販のヘム鉄であり,市販のクエン酸鉄はヘム鉄摂取の有効性を検討するためにヘム鉄摂取群の対照群とした.その結果,身長はじめ選手の身体的特徴は3群間に有意な差は見られず,初期の体脂肪率はN群,H群,C群でそれぞれ8.92±2.20%,8.48±2.84%,9.24±2.14%であり,5月から7月までの2ヶ月間の選手一人当たりの平均走行距離数は3群間で有意な差が見られず,一ヶ月平均640kmを走行していた.このとき,5月から7月までの間,いずれの群も鉄欠乏性貧血を発現する選手は見られず,潜在性鉄欠乏状態にある選手は5月期でN群,H群,C群でそれぞれ1名ずつ,7月期はそれぞれ2名ずつであった.選手は基本的には大学に附設されている学生寮で生活し,週5日間は1日3回,すべての選手が同じ食事を摂取しているが,土曜,日曜日は各自で食事をとっていた.食事調査より食品群別摂取量及びエネルギー及び栄養素摂取量を比較した結果3群間に有意な違いは見られなかった.すなわち選手は,介入前後,および,3群間に有意な違いが見られなかった.つまり選手一人1日あたりの平均摂取量はエネルギーが2500kcal,たんぱく質は90g,炭水化物320g,カルシウム800mg,鉄10.8mg,亜鉛11mg,銅4.5mg,ビタミンA1100μg,ビタミンB_1が1.3mg, B_2は1.5mg B6は1.5mg, B_<12>は8mg,ナイアシンは22mgNE, Cは100mgであり,この値は日本人の食事摂取基準を充足するものであった.このとき,赤血球,ヘモグロビン,ヘマトクリット,MCV, MCH, MCHC,フェリチン,鉄飽和率には3群間に有意な差は見られなかった.食事性鉄摂取量と鉄剤摂取量を考慮した選手の1日あたり鉄摂取量はH群とC群がN群に比べて7mgほど多かった.ヘム鉄摂取効果を検討した結果,GOT, GPT,γ-GTP, CPK活性には2ヶ月間の鉄剤投与による有意な上昇はH群及びC群ともに観察されなかった.しかし,H群に於いてのみヘム鉄摂取時にハプトグロビン濃度の有意な上昇が見られた.以上の結果より,食事摂取基準を満たした食生活を送る男性選手では鉄欠乏性貧血の発現はほぼ予防できる可能性,また,2ヶ月間の鉄剤摂取は肝機能や鉄栄養状態に有意な影響を及ぼさない可能性が明らかとなった.
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