Research Abstract |
本研究の目的は,現在はシイ,カシ類を主体とする常緑広葉樹林が極相植生と考えられている関東地方山麓から平野部で,晩氷期から後氷期にかけてどのような森林植生が優占していたかを明らかにすることである.平成16年度は文献レビューを精力的に行った.復元される森林は,日本列島では現在断片的あるいは二次林的と捉えられている,コナラ,クリ,シデ類,カエデ類を中心とする落葉広葉樹林との見通しを得た.さらに,関連する落葉広葉樹についての野外観察を行った.それらの概要は以下のようである.当時の関東地方山麓・平野部にはシデ類,コナラ,クリ,カエデ類,サクラ属,エゴノキなどを主体とする落葉広葉樹林が優占していた.これらは,現在の日本列島では優占せず,そのためにあまり着目されていないが,東アジア大陸部では主要森林の一つ,すなわち大陸型落葉広葉樹林である.これらは,種類組成や構造,更新動態の資料から,現在は二次林と捉えられているものでも,実際は一つの独立した森林タイプと見なすべきことが明らかとなった.現在の関東地方に分布する落葉広葉樹二次林(いわゆる雑木林)は,こうした森林の生き残り,遺存植生と捉えるべきものである.結果から,以下のようなシナリオの検証が可能になった.晩氷期から後氷期にかけて,関東地方山麓部・平野部では常緑広葉樹林が拡大する一方で人間活動が活発になり,それ以前に広がっていた落葉広葉樹林が二次林として残存し続け,現在でも遺存植生として台地上から山麓部にかけて断片的に見られる.したがって,現在の関東地方の落葉広葉樹二次林は最終氷期からの遺存植生および東アジア大陸部と極めて関連の深い植生として,歴史的,空間的に貴重な自然遺産でその価値は極めて高く,緑地保全や緑地設計に重要な指針である.
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