Research Abstract |
本研究の目的は,現在はシイ,カシ類を主体とする常緑広葉樹林が極相植生と考えられている関東地方山麓から平野部で,晩氷期から後氷期にかけてどのような森林植生が優占していたかを明らかにすることである.平成18年度は文献レビュー,補足野外調査および全体のとりまとめを行った.房総半島南部館山市の沖ノ島遺跡を発掘し,BC7500年前後の縄文早期の地層を調べた結果,アサなどの栽培植物に伴って,大型植物化石群ではタブノキが優占してヤブツバキやモチノキを含み,花粉化石群ではアカガシ亜属が優占することが明らかになった.大型植物化石群にはアサダやキハダといった冷温帯の要素も含まれる.これは関東地方でこれまで得られた常緑広葉樹林の証拠としては最古のものであり,最終氷期に発達した落葉広葉樹林から,房総半島南部をレフュージアとした常緑広葉樹が分布拡大を始める初期の林相を示していると考えられた.さらに,関連する落葉広葉樹についての野外観察を行った.本年度の結果を総合すると,晩氷期から後氷期にかけての関東地方山麓・平野部にはシデ類,コナラ,クリ,カエデ類,サクラ属,エゴノキなどを主体とする落葉広葉樹林が優占していた.これらは,現在の日本列島では優占せず,そのためにあまり着目されていないが,東アジア大陸部では主要森林の一つ,すなわち大陸型落葉広葉樹林である.現在の関東地方に分布する落葉広葉樹二次林(いわゆる雑木林)は,こうした森林の生き残り,遺存植生と捉えるべきものである.こうしたことから,以下のようなシナリオの検証が可能になった.晩氷期から後氷期にかけて,関東地方山麓部・平野部では常緑広葉樹林が拡大する一方で人間活動が活発になり,それ以前に広がっていた落葉広葉樹林が二次林として残存し続け,現在でも遺存植生として台地上から山麓部にかけて断片的に見られる.
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