Research Abstract |
本年度は採取したコア試料の堆積年代の特定と重金属元素の定量を行った.既に分析が完了している地点に加え,新たに琵琶湖北湖で採取したコア試料の解析を行った.本研究で入手したコアは従来のKK式採泥器で採取したコアに比べると大口径であるために採泥時の乱れが少なく,また時間分解能にも優れていた. 琵琶湖底質の人為的汚染は,その地理的特色から京阪神地区から大気を経由して運ばれた汚染物質が集水域に降下し,それが雨水で運ばれて琵琶湖に流入,底質に沈降・蓄積すると考えられる.従って,琵琶湖底質の重金属汚染を時系列に沿って解析することで,近畿圏における人間活動と重金属汚染の関係を歴史的に検証することができる. 産業活動で人為的に排出される典型的な重金属であるクロム,ニッケル,銅,亜鉛,水銀,鉛について,その汚染の歴史トレンドを調査した.その結果,水圏で陽イオンとして存在しやすく,固相を形成し難いニッケルの堆積物への汚染は認められなかったが,他の重金属については近世における明瞭な汚染が,その濃度増大として認められた.その歴史トレンドはいずれも明治維新以降に汚染が始まり,日露戦争が始まる1900年代当初からは人為汚染の濃度が急増する.特に汚染が顕著であった亜鉛と鉛は1970年にピークを示した後,亜鉛は現在までほぼ一定濃度を,鉛は濃度の減少が認められた.鉛の濃度低下は四エチル鉛の使用規制と一致した.一方,水銀については1960年にピークを示した後,現在に向かって濃度が急激に低下する.これは1950-60年代にいもち病の特効薬として琵琶湖周辺の水田でも使用された有機水銀系農薬の散布履歴と一致した.この時代の堆積層中の水銀の存在状態を溶媒抽出法で検討したところ,ベンゼンに抽出される水銀の存在が確認され,農薬として使われたフェニル水銀が現在でも残存していることが確認された.
|