Research Abstract |
従来の天然および合成有機化合物の抗がんスクリーニングには各種腫瘍細胞の増殖抑制作用を指標におこなわれてきたため,多くの薬物は正常細胞に対しても強い毒性を示し,副作用が強いといった難点が挙げられている.このような背景のもと,がんの悪性化を妨げる医薬品の開発が望まれている. 平成16年度は研究室で保有している化合物ライブラリーのうち抗がん作用あるいは長寿,・延命効果が伝承されている生薬約20種類から単離した化合物約200種類を選択し,i)基底膜浸潤阻害作用,ii)MMP産生抑制および酵素活性阻害作用,iii)ヒト白血病細胞における分化誘導作用について実施し,以下の結果を得た. i)基底膜浸潤阻害作用:和漢生薬およびタイ天然薬物やそれらから得られたフラボノイド,リグナン類などについて検討したところ,baicalein, luteolin, isoquercetin, rutinなど12種のフラボノイドに有意な抑制活性が認められた.また,タイ産ガジュツから得られたクルクミノイド(curcumin, dihydrocurcumin, bisdemethoxycurcumin)に有意な活性が認められた.クルクミノイドについては構造活性相関を明らかにする目的で,各種誘導体を調製し,検討したところ活性発現には芳香環上のメトキシル基は重要ではなく,鎖状部分の二重結合の存在が重要であることが明らかになった. ii)MMP産生抑制及び酵素活性阻害作用:基底膜浸潤阻害活性の認められた和漢生薬およびタイ天然薬物について実施したところ,タイ産ガジュツにMMP産生阻害を見出した.また,基底膜浸潤阻害活性成分として得られたクルクミノイドにMMP産生阻害活性が認められ,同様の構造特性が確認された. iii)ヒト白血病細胞における分化誘導作用:U937細胞およびHL60細胞を用いた形態変化を指標に和漢生薬,エジプト産天然薬物から単離したリグナン類,アルカロイドおよびテルペノイドなどついて検討したところ,乳香に含まれるトリテルペンisofouquierolなどに活性を見出すとともに,新規トリテルペンolibanumol類を単離し,それらの化学構造を明らかにした. その他,エジプトでがんに著効と伝承されているNigella sativaからdolabellane型新規ジテルペンアルカロイドnigellamine A_1〜A_5,B_1〜B_3,CおよびDを単離・構造決定した.さらに,Nuphar pumilum を基源とする川骨から単離した含硫黄セスキテルペン二量体アルカロイド類およびエジプトおよびその周辺地域の薬用植物であるCrinum yemenseから単離したアルカロイド成分に強力なアポトーシス誘導活性を見いだすなど,平成16年度の当初計画をほぼ達成したものと考える.
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