Research Abstract |
環反転した糖を含む,あるいは利用した化合物合成を目的として,環反転した糖の供給源となる部分的にベンジル保護したグルコース誘導体の合成,シクロヘキサン環を反転させる最小限の要因を追求した基礎研究,および環反転した糖を用いた高β選択的なグリコシル化反応の開発を行った。 まず,methy12,3,4,6-tetra-O-benzyl-α-D-glucopyranosideのベンジル保護基は,無水酢酸中酸性条件下で,6位,3位,4位,2位の順で段階的に開裂することを明らかにした。この順番は従来報告されている順番の訂正である。続いて,この脱ベンジル化の順番を利用して,部分的にベンジル化したグルコース誘導体,2,3,4-tri-,2,3-,2,4-,3,4-di-,および2-O-benzyl-D-glucopyranoseacetatesの容易かつ位置選択的な合成法を確立した。本手法のポイントは酸触媒の強度調整と,適切な反応基質の選択にある。上記に示した5種類の部分的にベンジル保護したグルコース誘導体は,環反転したグルコース誘導体を合成するために非常に有用な化合物である。 一方,trans-1,2-bis-(tert-butyldiphenylsiloxy)-,(triisopropylsiloxy)-および(tert-butyldimethylsiloxy)cyclohexaneは,結晶状態で1,2-ジアキシアルの立体配座を安定にとっていることを,X線解析に基づき明らかにした。糖のみならず,シクロヘキサン誘導体も,嵩高いシリルオキシ基の導入によって環反転を起こすことは本報告以前にも知られていたが,本研究では,その最も基本的な部分のみを抽出しても,やはり環反転が起こることを示しており,非常に基礎的な知見を示すことができた。 次いで,Ethyl 1-thio-2,3,4,6-tetrakis-O-triisopropylsilyl-β-D-glucopyranoside, ethyl 6-O-benzyl-1-thio-2,3,4-tris-O-tri-isopropylsilyl-β-D-glucopyranoside,およびethyl 6-O-pivaloyl-1-thio-2,3,4-tris-O-triisopropylsilyl-β-D-glucopyranosideは,非常に高いβ選択性でグルコシル化反応を起こすことを発見した。これらの反応基質はいずれも環反転したねじれ舟型を有しており,その立体配座こそが,高いβ選択性発現の理由であることも明らかにした。本手法は,従来法では合成経路に於いて不都合があるときに別法となりうるものであり,今後広く利用されることが期待される。
|