2005 Fiscal Year Annual Research Report
<プルーデンス>の系譜-<自己配慮する>自由な主体の形成について-
Project/Area Number |
16520006
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
加茂 英臣 千葉大学, 教育学部, 教授 (20114267)
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Keywords | プルーデンス / フロネーシス / 自由 / 快苦の計量術 / プロタゴラス / ギリシャ悲劇 / 自己保存 / 技術 |
Research Abstract |
近代型<プルーデンス>は、人生を「幸福」を目指して、制作、企画できるものとして理解してきている。これに対して、アリストテレスの「フロネーシス」概念は、人生を、偶然性に晒されているもの(他でありうるもの)と把握し、行為の目的が行為の今において実現されている「プラクシス・エネルゲイア」として意味づけている。 「プルーデンス」は、ギリシャ語「フロネーシス」のラテン語訳である。前者を功利主義的近代型<プルーデンス>として,それに対してアリストテレス固有のものを<フロネーシス>として峻別して、「プルーデンスとフロネーシスの間」という論文を完成することができたことは、今回のテーマ研究にとって大変有意義なものであった。さらに<プルーデンス>の原型は、古代ギリシャにおいてはソフィストの技術的文明論まで遡ることができることを解明できた。 <プルーデンス>型は、社会契約とか交換の自生的構成、快苦の収支決算などの功利主義的主体の行為原理として援用されるのに対して、アリストテレスの<フロネーシス>概念は、ギリシャ悲劇に親和性を有している。たとえばオイディプス王の行為に見られるように、ひとの内面的統一、行為主体の利害ではなく、アイデンティティーを配慮する知性として理解すべきものとして明らかになった。そして、利害の主体の行動原理を<プルーデンス>と、自尊や誇りの主体、自己のアイデンティティーの配慮原理として<フロネーシス>の二重の襞の統一体として「行為の主体」を再構成する可能性が開けてきた。 この研究の意義を確かなものとして仕上げる過程で、スコットランド啓蒙研究の専門家ロビン・ダウニー氏との議論、検討がさまざまなヒントを提供してくれた。同時に、ブリティッシュ・ライブラリー、ベルリンとライプツィッヒのそれぞれの国立図書館の蔵書と資料そしてそこでの作業環境がなければ、当研究は困難なものとなっていたことは間違いない。
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Research Products
(2 results)