2006 Fiscal Year Annual Research Report
ディルタイと転換期ドイツの思想-「文化」概念を手がかりに
Project/Area Number |
16520066
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Research Institution | KYUSHU UNIVERCITY |
Principal Investigator |
鏑木 政彦 九州大学, 大学院比較社会文化研究院, 助教授 (80336057)
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Keywords | ディルタイ / ジェイムズ / ニーチェ / 文化批判 / 世俗化 / 多元主義 / ヒエラルヒー |
Research Abstract |
平成18年度は本研究期間の最終年度であり、従来の経験成果を活かしながら、一定のとりまとめを行うことに主眼をおいた。本年度の主たる成果は二つに要約される。 まず第一の成果は、ニーチェとジェイムズを、エマソンを媒介にしつつ比較して、十九世紀における西洋思想史の一端を究明したことである。本研究によると、ニーチェの「系譜学的」方法とジェイムズの「進化論的」方法は、西洋近代において特権的地位を占める理性を生の文脈に引き戻す比較可能な試みとして解釈される。20世紀初頭において両者の思想が社会思想へと転用されるにあたっては、前者がエリート主義へ、後者が多元主義へと異なる型をとったが、本研究はこれらの思想的淵源を究明することで、両思想がそれ以外の社会的政治思想と結びつきうる可能性を示唆する。 第二の成果は、政治と文化に関するドイツ思想史の解釈を通して、文化言説生成を思想史的に究明したことである。「転換期ドイツの思想」究明のために第一の研究では地理的比較対象を、本研究では十七世紀と十八世紀という歴史的比較対象を導入した。これによって、十七世紀における中世的なヒエラルヒー構造と文化との関係と、十八世紀におけるヒエラルヒー構造の解体と個人主義への転換を確認し、それらを踏まえて十九世紀末における「転換」の意味を再解釈することを試みた。それによれば、十九世紀末における「転換」とは、ヒエラルヒー構造解体後の水平化された世界において支配的となったナショナルな文化の再考(新たな基礎付け、あるいは根底的な懐疑)として特徴づけられる。伝統的社会のヒエラルヒー構造が有していた「聖なるもの」は、個人の自律を通して世俗化され、逆に個人あるいは国民の聖化が進行するが、そこで主要な概念として登場するのが「文化」なのである。
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Research Products
(1 results)