2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16520073
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
佐々木 健一 日本大学, 文理学部, 教授 (80011328)
|
Keywords | 美学 / 基礎概念 / 複製 / アヴァン・ギャルド / ジャンル / 感情 / 感性・感受性 / 独創性 |
Research Abstract |
今年度の研究は、一方では資料の収集を行いつつ、他方ではこれまで断片的に行っていた幾つかの概念に関する研究を整理することに主眼を置いた。後者に関して、未定稿ながら原稿化に着手したものとしては、「ジャンル」「感情」「感性・感受性」「崇高」「優美」「霊感」「独創性」「複製」「アヴァン・ギャルド」がある。これらの完成度はまちまちで、しかも、当初の目標である『美学辞典』パート2に採用すべき概念かどうかについては、いまだ最終判断を留保している。これらのなかで、比較的完成度の高い「複製」と「アヴァン・ギャルド」について、その内容の概略を記し、実績報告とする。 「複製」とは藝術品を複数化する仕事であり、その成果たる対象である。この複数化には2つの種類があり、I本来1点しかないオリジナル(絵画や彫刻など)を写真に撮るなどした複数化、II版画や写真のように、初めから複数のオリジナルを持つジャンル、を区別しなければならない。複製論の古典であるベンヤミンの論じたのはIIだが、狭義の複製と呼ぶべきはIのみである。そのIをコピーと呼ぶなら、それも更に「レプリカ」と区別することが必要である。レプリカとは、彫刻における摸刻や絵画の模写のように、オリジナルと同じ素材と手法による複数化の古典的手法である。版画はルネッサンス期に、写真は19世紀初め、映画と録音は19世紀末に開拓されたが、今日では機械的に作成された複製が多くにひとにとっての基本的な藝術経験の手段になっている。この複製は、もはや代用品の域を超えており、真剣に考察すべき対象となっているが、当面、3つの問題点を指摘することができる。まず、機械的複製は像化、あるいは更に記号化であり、オリジナルの質料性を欠いている。更にこのことは、ベンヤミンの「アウラ」に関係する。かれはオリジナルにアウラがあり、複製にはそれが欠けていると論じたが、現実は逆に、この脱質料的な対象は独特のアウラを作っている(映画スターの虚構性)。第3に、身近で氾濫状態を示す複製は、観賞者の態度にも影響を及ぼし、注意散漫な観賞法を生み出し、広めてもいる。 「アヴァン・ギャルド」とは、近代の藝術史のなかで、過去を徹底的に批判し、先頭に立って未来を切り開こうとした藝術家とその作品の特徴を指す。この概念が生まれるについては進歩の歴史観と、藝術を特権的なハイカルチャーと見る思想が前提となる。アヴァン・ギャルドには2つの位相があり、1870年ごろ生まれ、ダダイズムを典型とするもの(「歴史的アヴァン・ギャルド」)とポップ・アートを中心とするネオ・アヴァン・ギャルドである。前者が藝術の要件のなかに組み込んだ過激な「新しさ」の要求が、一般化する際に商業主義と結びつき、生まれたのが後者である。また、作らない藝術もまた、同根の現象であり、藝術の再定義の問題を提起した。この「アヴァン・ギャルド」の問題点として、メティエの後退という事実があり、そこからまた、純粋感性化した藝術の危うさを照射している。
|
Research Products
(5 results)