2005 Fiscal Year Annual Research Report
近現代のチェコにおけるオペラ創作とナショナル・アイデンティティの構築
Project/Area Number |
16520081
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
内藤 久子 鳥取大学, 地域学部, 教授 (60263456)
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Keywords | ベドジフ・スメタナ / チェコ国民オペラ / チェコ国民楽派 / アントニーン・ドヴォジャーク / レオシュ・ヤナーチェク / スラヴの音楽 / 音楽学 / 中欧の音楽文化史 |
Research Abstract |
本研究は、19世紀から20世紀における「チェコの音楽劇」に焦点を当てながら、19世紀ナショナリズムの時代に「国民オペラ」を樹立しようとしたスメタナから、さらに20世紀現代オペラの発展へと向かう中で、より「地域性」に基づいて独自の民俗オペラを開拓していったヤナーチェクのオペラ創作までを中心に、それらを「ナショナル・アイデンティティの形成」という視座から跡づけるものである。本年度は「文化ナショナリズムと近代」というテーマのもとに、ハプスブルク帝国所領のチェコ地域における「近代文化の創造」に焦点を当て、主に研究の前半部分では、18世紀末から19世紀前半における「『民族復興期』の中欧チェコにおける民衆文化の成立と展開」について紀要に纏めた。それらの考察をもとに、現在進めている『チェコ音楽の魅力』(ユーラシア選書)と題する単著の一部となる「スメタナ論」を書き上げ、その中でスメタナの音楽の起源を17・18世紀まで遡り、その洞察を『チェコ学・スロヴァキア学レクチャー集』に纏めた。先の「スメタナ論」では、特にアーネスト・ゲルナーのナショナリズム論を論考の基礎としながら、チェコ民族主義の2つの局面である「素朴さと英雄なるもの」という視座からスメタナの国民オペラの動向、そしてオペラ創作の美学を社会・政治・文化史を踏まえて分析し、彼の創作理念や近代芸術の創造をめぐる論争も含めて、「スメタナ-ボヘミアにおける『チェコ近代音楽』の創出」として纏めた。 このように本年度は、いわゆるナショナリズム論や19世紀の音楽文化史を含む文化史関係の資料を入手し、さらに当初予定していた現地調査で得ようとしていた第一次資料等の文献(書簡や記録文書他)が出版され、それらを入手するための資料購入費がかなり高額に必要となった。また一流のオペラ作品の舞台化を録画した「オペラ全集」がDVDで発売され、何よりも貴重なチェコ・オペラの映像資料を入手出来たことで、チェコ・オペラの研究が視覚的にもより可能な段階に入ってきたといえる。さらに購入したノート型パソコンによって、資料のデータ・ベース化や、例えば「ローカル・カラー」を象徴する舞台美術に関する画像資料の処理をより迅速なものとし、今後ドヴォジャークからヤナーチェクに至るチェコ・オペラの全貌をまとめてゆく礎がほぼ整ったといえる。
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Research Products
(2 results)