2004 Fiscal Year Annual Research Report
ギリシア・ローマ文学における他者像の変容に関する研究
Project/Area Number |
16520143
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小川 正廣 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (40127064)
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Keywords | 他者 / 自己 / 異民族 / 非自由人 / 奴隷 / ホメロス / ソポクレス / キケロ |
Research Abstract |
西洋古典の原点をなす前8世紀末のホメロスの叙事詩には、その後のギリシア古典期(前5〜4世紀)に高度化する「自己と他者」の二項対立の構図の原型がすでに成立していた。とりわけ「人間と神」の峻別は特徴的であり、また「夫と妻」「男性と女性」「老年と若年」の優劣・上下関係も比較的明瞭である。しかし「自民族と異民族」「自由人と非自由人」「主人と奴隷」などの対立的概念についてはどの程度発達していたのか十分明確ではない。それは、ギリシア・アルケイック時代の民族意識と社会的階層化の歴史的実態がいまだ明らかになっていないことと関係している。そのため、前8世紀末〜7世紀初めの世相を反映したホメロスの英雄叙事詩とヘシオドスの教訓叙事詩のテクストを素材として、当時の人間社会の実相に照らしつつ、問題となるそれらの対立的概念の起源について考察した。次にポリス社会が高度に発達した前5〜4世紀のギリシア古典時代にはいかなる他者像についての変化が観察できるのかについて、悲劇作品にもとづいて検討した。すなわち、他者なる神と対決した人間の自我のドラマであるソポクレスの『オイディプス王』、またポリスの中の他者としての老人をテーマとした同じくソポクレスの『コロノスのオイディプス』を中心にして他者像の様相について考察した。さらにのちのローマ時代の他者像についても検討を開始した。まず雄弁家キケロの代表的政治弁論『カティリーナ弾劾』を対象として取り上げ、中央政府の権力奪取をねらう上層市民を共和政末期のローマ社会が「国家の敵」として他者化するプロセスを分析し、ついでウェルギリウスの『牧歌』における奴隷としての牧人のあり方について考察した。
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Research Products
(3 results)