2005 Fiscal Year Annual Research Report
ギリシア・ローマ文学における他学像の変容に関する研究
Project/Area Number |
16520143
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小川 正廣 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (40127064)
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Keywords | 他者 / 自己 / 異民族 / 非自由人 / 奴隷 / ヘレニズム / ローマ / セネカ |
Research Abstract |
ヘレニズム時代からローマ時代のさまざま文学作品を対象にして他者像を探求した。 1.前4世紀後半から3世紀初めは、他者の位相を鮮明に規定していたポリス共同体の解体にともない、自己と他者の関係意識にも大きな変化が現れた。とくにギリシア・アッティカ新喜劇のメナンドロスの現存4作(『気むずかし屋』『調停裁判』『髪を切られる女』『サモスの女』)における、男女・親子・夫婦の葛藤、捨て子や私生児の運命などを題材として描出されたヘレニズム時代に生きた民衆の他者像、また同時代のアポロニオス・ロディオスの叙事詩の異民族観や女性観、カッリマコスの讃歌・小叙事詩の老人や子供等の弱者への眼差し、あるいはテオクリトスの牧歌の牧夫や魔法使いの女の世界には、グローバル化時代のギリシア人の他者意識の変化がうかがえるものである。 2.また、ローマ帝政初期(1世紀)のセネカの倫理的著作『寛恕について』と『恩恵について』は、ストア哲学の博愛的思想に依拠しながら、世界帝国ローマにふさわしい寛容な支配者像や、奴隷を独立の人格を持つ存在として捉える新たな人間観を提示している。 3.そうしたヘレニズム・ローマ時代の他者像の変容について、テクストに即して綿密に分析しながら考察したが、さらに、各作家が拡大したギリシア・ローマ文化の多民族社会をいかなる地理的・民族誌的視野でとらえていたかを検証するため、当時の文化の一中心地となった北アフリカ地中海沿岸(現チュニジア)、および東西南北の文化的接点となったイタリア・サルデーニャ島において、ギリシア・カルタゴ・ローマの古代遺跡を多数調査し、映像および文字資料を収集した。
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Research Products
(5 results)