2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16520144
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
岩上 はる子 Shiga University, 教育学部, 教授 (40184858)
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Keywords | ブロンテ / ジェイン・エア / 水谷不倒 / 岡田みつ / 遠藤寿子 / 十一谷義三郎 / 女学雑誌 / 研究社英文学叢書 |
Research Abstract |
本研究の目的は、日本におけるブロンテ受容の歴史をたどることにある。ブロンテ姉妹が日本の読者たちにどのように受容されたかを、明治初期の紹介の時代から、昭和初期に邦訳が出版されるまでを、文芸雑誌、学術雑誌、新聞その他の一次資料を基に跡づけ、最後に翻訳の検証を通して日本におけるブロンテ姉妹の受容の分析を試みた。 最終年度にあたる本年は、本研究の第三段階である翻訳検証として十一谷義三郎の『ジェイン・エア』をとりあげた。初めに、新感覚派の小説家として位置づけられる十一谷が一方では優れた英文学研究者であったことを、その著作(『英文学の知識』他)や翻訳(ハーン『東西文学論』他)、伝記資料を基に検証した。次に『英語英文学講座』などに寄せた十一谷の論文から『ジェイン・エア』との関わりを迫い、強烈な自我意識をもつ少女ジェインの造形に十一谷の文学のテーマと通底するものがあることを指摘した。最後に、既出の岡田みつの註釈、遠藤寿子訳と比較検討し、十一谷訳の特質をさぐった。結論として十一谷の重厚な訳が根底において、十一谷自身の文学につながる深い内面性をそなえたものであることを示した。 これまで『唐人お吉』などの小説家としての十一谷についての研究はなされそいるが、英文学者としての十一谷を研究したものはほとんど見られない。今回の研究によって翻訳が十一谷にとって片手間の仕事ではなく、じつは「孤独」「自我」「生命への礼賛」といった根本的な人生観において通底していることが証明されたことの意義は大きい。また受容史研究のひとっの方法として、翻訳の検証をすることで作品がいかに解釈され表現されたかを分析することも有効であることが立証された。
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