2005 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀後半のドイツ諷刺文学における主体の表出の諸相
Project/Area Number |
16520150
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
亀井 一 大阪教育大学, 教育学部, 助教授 (00242793)
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Keywords | ドイツ文学 / G.Chr.Lichtenberg / Jean Paul Fr.Richter / Der Weg der Buhrerin / Erklaerung der Holzschnitte / テクスト論 / 近代芸術の主体 / 諷刺 |
Research Abstract |
ジャン・パウル(Jean Paul Fr.Richter)の『教理問答十戒の下の木版画解説』(1797年)とリヒテンベルク(G,Chr.Lichtenberg)「娼婦の道行き」(『ホガース銅版画の詳細な解説第二巻』所収1795年)において主人公の主体がどのように現われているのかを分析した。 『詳細な解説』の前提になっているのは、ホガースの銅版画の不可視性である。リヒテンベルクの解説が進むにしたがって、銅版画の細部に光が当てられ、それまで目の前にありながら意織されていなかったものが、意味あるものとして浮かび上がってくる。純真無垢に見える少女は、都会の女がぶら下げている懐中時計に心を奪われている。しめやかな葬儀の準備をしていると見える会衆も、よく見ればそれぞれ不埒な行いに身を任せていることが判ってくる。『詳細な解説』をして諷刺たらしめているものは、娼婦の社会的現実でも、銅版画のモチーフでもなく、解釈の作業そのものである。『詳細な解説』に、主人公の内面描写はまったくない。主人公の主体も、明白な事実として最初からそこにあるのではなく、解釈の過程の中で現前化されるのである。 『木版画解説』は、ジャン・パウルがリヒテンベルクの『詳細な解説』を本質的に理解していたことを示している。『木版画解説』に登場する語り手ジャン・パウルは、木版画の人物に文字が隠されているのを発見する。木版画そのものは、だれがどう見ても、聖書モチーフを単純に描いているにすぎない。文字はジャン・パウルにしか読むことができないのである。しかし、見てすぐにそれと判る聖書の場面が、木版画作者の生涯へ読みかえられるのは、まさにこの文字の読解によるのである。『木版画解説』では、解釈が虚構に支えられている一方で、木版画の物語が作者の生涯に重ねられることによって、近代芸術における作者の現前が問い直されている。
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Research Products
(1 results)