2006 Fiscal Year Annual Research Report
ゾラの小説・美術批評と1860-80年代のフランス絵画の相関研究
Project/Area Number |
16520152
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
吉田 典子 神戸大学, 国際文化学部, 教授 (20201006)
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Keywords | ゾラ / ボードレール / 印象派 / 都市風景画 / 共和主義 / 美術社会史 / 装飾 |
Research Abstract |
本研究の3年目に当たる本年度は、テーマ全般にわたって不十分な点を補足・強化することを目的として、以下のような成果を得た。 (1)1860年代に関する新たな知見としては、ゾラがその美術批評や創作活動において、ボードレールから、かなりの影響を受けているのではないかということが指摘できる。実際、これまでゾラにおけるボードレールの影響を論じた研究はほとんどない。しかしゾラはその美術批評において、ボードレールの「現代生活の画家」などからかなりの示唆を受けていると考えられ、またパリを舞台にしたゾラの短編にはボードレールの散文詩の影響が顕著である。そして彼らが都市生活に注いだ眼差しは、画家たちと共通点を持つ。一例として、ボードレールの散文詩草案「帽子のエレジー」は、ゾラの『テレーズ・ラカン』を経て、ドガの《婦人帽子店》シリーズにつながる。 (2)1870年代に関しては、ゾラの『パリの胃袋』(1873)と絵画作品との相関研究が1つの柱となるが、昨年度扱った都市風最画の問題は、さらに発展させられることがわかった。つまり、1870年代の都市風景画には普仏戦争とパリ・コミューンによって多くの建物が廃墟と化したパリの再構築と、第3共和制下における新たな芸術への模索を読み取ることができる。『パリの胃袋』において主人公の共和派青年フロランの政治的革命は失敗に終わるが、その革命はフロランの「分身」である副主人公の画家クロード・ランチエによって、美学的に受け継がれると考えることができる。クロードは鉄とガラスの中央市場の建築と色鮮やかな野菜の堆積に「現代芸術」のマニフェストを見ているが、こうしたゾラの描写はモネの《サン=ラザール駅》やカイユボットの《ヨーロッパ橋》といった都市風最画につながり、さらにカイユボットやルノワールなども示唆している都市「装飾」としての絵画の概念に結びつくことがわかった。
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