2004 Fiscal Year Annual Research Report
ラカン・クリステヴァの精神分析的視点からの文学表象理論の構築
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16520153
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
枝川 昌雄 神戸大学, 文学部, 教授 (60031374)
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Keywords | 物理学的シェーマ / 現実界 / 対象a / トポロジー |
Research Abstract |
ラカンを主とする精神分析理論を文学の表象理論に応用するために、今年度試みたのは、以下の諸点である。 1 主体の構造を空間化して提示するラカンの物理学的な光学モデルの理論的進化・変遷を三つの図式にまとめ、それぞれを(1)ブアス・モデルの改訂版 (2)二つの鏡モデルとその発展形態 (3)クロス・キャップモデル と命名した。第一段階は、ほぼ物理学者ブアスの考えに沿ったもので、ある装置のもとに虚像の花束が出現する実験であり、第二段階はラカンの「鏡像段階」(想像界)の延長上にあるもので、ここで大文字の他者Aが導入される。第三段階はラカンのキーワードである「現実界」が、トポロジーのもとに考察され、欠如する欲望対象「小文字のa」が究明される。 2 この光学モデルを応用して、ジジェクをも援用しながら、米映画『マトリックス』を分析した。現実の世界が実は人工知能が想像したマトリックスという名の仮想世界である、という倒錯した世界、その世界を突き抜けた「真の現実」が実は荒涼たる「現実界」に他ならぬ、というこの『マトリックス』の世界は、ラカンの光学モデルと見事に符合する。 3 ラカン・モデルの第三段階をさらに具体的に検証するために、村上春樹の『海辺のカフカ』を分析した。通常のレアリスムの枠では捉えられないこの小説では、精神分析的なエディプス関係が物語の筋の展開の推進力の役割を担っており、まさに象徴界への現実界の噴出・回帰が全体のテーマとなっている。「入り口の石(想像界の穴)」を通って、異界=死の世界=現実界を往還する「カフカ少年」の、時空がねじれ、ゆがんだ世界は、象徴界と現実界という、二つの異質な空間のモデル化であるクロス・キャップモデル(ラカンの光学的シェーマの第三段階)、そこに含まれるメビウスの帯と対象aを適用することによって、よりよく解釈できるのである。
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Research Products
(1 results)