2006 Fiscal Year Annual Research Report
ラカン・クリステヴァの精神分析的視点からの文学表象理論の構築
Project/Area Number |
16520153
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
枝川 昌雄 神戸大学, 文学部, 教授 (60031374)
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Keywords | ボロメオの結び目 / 昇華理論 / ラカンの現実界 / 享楽概念 |
Research Abstract |
ラカンとクリステヴァの精神分析理論を文学の表象理論に応用し、新たな文学理論を構築するために、今年度試みたのは、以下の諸点である。 1 フロイトは心的世界の構造を、三つの位相に分割して考察した。無意識、前意識、意識よりなる第一局所論と、エス、自我、超自我の第二局所論である。問題はこれら三つの審級が、空間的な階層構造として解釈されることが多かったことにある。ラカンは、新に現実界(R)、想像界(I)、象徴界(S)の三界を提案した。コンピュータになぞらえて言えば、0-1によるデジタルな象徴界、それを映像化する想像界、直接には接近不可能なOSが現実界である。これら三界がラカン最晩年に、ボロメオの結び目として定式化される。 2 ボロメオの結び目とは、R, I, S,の一つを切り離すと残りの二つもバラバラになってしまうような三つの輪によって構成される。このバラバラな状態が精神病であり、その発症を妨げるために、第四の輪が補完される。この第四の輪は「父の名」と命名されるが、これはエディプス期に第三者たる父が母子融合状態に介入してこれを切断しない限り、言い換えると「父の名の排除」が生じる場合に精神病が育まれうることに起因する。父の名に由来する症状、つまり父の欠如を補填する症状をラカンは「サントーム」と呼ぶ。 3 『フィネガンズ・ウェイク』を初めとするジェイムズ・ジョイスの芸術は、まさにこのサントームそのものである。R, I, S,の三つのボロメオの輪をしっかりとつなぎ止め、父の欠如を代償する、第四の輪としての彼のエクリチュールの働きによって、ジョイスは、想像界抜きで現実界と象徴界とが癒着する精神病を免れているといえる。彼のエクリチュールが症状と等価であり、症状が現実界に由来するものであるなら、ジョイスを読むことは、現実界に位置する「享楽」を解放することにつながる
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Research Products
(1 results)