2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16520155
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松田 浩則 神戸大学, 文学部, 教授 (00219445)
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Keywords | フランス / ヴァレリー / 帝国主義 / ナルシシズム / エロス / 身体感覚 |
Research Abstract |
「地中海的な知識人」とも「フランス第三共和制のボシュエ」とも称されるポール・ヴァレリーの言動のなかには、党派的な言動は少ない。皆無といってもいいほどである。しかし、知的形成期のヴァレリーの思考傾向には次のような偏向ともいうべき特徴のあることが判明してきた。 1.青年期のヴァレリーは国家としてのフランスの偉大さにたいするうぶなまでの信念に取りつかれている。それは、各種の政治的・経済的なスキャンダルで弱体化したばかりか、経済力や軍事力でイギリスに大きく水をあけられ、プロシアやイタリアやさらには日本に追いつかれてしまった共和制下のフランスにたいする失望の念と一体化したものである。政治的にも経済的にも訓練されていない政治家たちに牛耳られて明るい未来図を描けないフランスという国家を前に、ヴァレリーはときに善悪の観念、さらには、道義や道徳観さえをも超えて強さを構成するものの秘密の分析に向かう。帝国主事的搾取にたいするヴァレリーの曖昧な態度、反ドレフュス、反ユダヤ人的な態度の根底には、こうしたヴェクトルが強力に作用している。 2.しかし、こうしたヴェクトルは実は自我の不安という問題に由来している。自分の文学的才能に対する絶望感、愛情問題での閉塞感などが、強い自我、強い国家への幻想となって噴出する。そして、こうした幻想をかかえ、自分のうちにひたすら閉じこもり、瞑想し、自分のあるべき姿を探るヴァレリーには奇妙な空間感覚、身体感覚のぶれが生じてくるが、ここで彼は身体と言語の解体とそれらの再編成の境目に立たされている。後年のヴァレリーの洗練されたエクリチュールは、こうした政治的な葛藤と身体感覚のもとで生まれてきたと考えられる。
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Research Products
(2 results)