2006 Fiscal Year Annual Research Report
触媒としてのイタリア:英国のアイデンティティーを求めて-英国演劇の場合
Project/Area Number |
16520173
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Research Institution | Takushoku University |
Principal Investigator |
冨田 爽子 拓殖大学, 工学部, 教授 (30197925)
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Keywords | Elizabethan / translation / Italy / publication / George Whetstone / Promos and Cassandra / drama / influence |
Research Abstract |
1560年代の英国では、イタリア関係の書籍が突然夥しく出版されるようになった。大半は翻訳であったが、中には言語のイタリア語のまま、あるいはラテン語の書物もあった。その中で戯曲の出版は極めて少ない。この時期、英国はイタリアに強い関心と憧れを抱き、交流を通じて自国意識を高め、イタリアの文化を自らの文化の中に積極的に取り込んでいった。エリザベス朝の英国社会は未知への好奇心と多様性の愛好をその特徴とする。 本研究は、翻訳や翻案されたイタリアの戯曲が極めて少ないにもかかわらず、英国のアイデンティティーの模索は演劇においてはっきりと具現されていることを示す。英国的なるものの確立の過程に貢献した戯曲作品の中で、特にGeorge Whetstone のPromos and Cassandraに焦点を当て、現代では評価されていないこの作品が、前代未聞のエリザベス朝演劇興隆の直前にあって、確立されつつあった英国らしさの自覚を明瞭に表していることを示した。 Promos and Cassandraはacademic literary exerciseであり、上演されることはなかった。その意味では作者の思いは当時の観客の心に響くことはなかった。しかし、戯曲は出版され、MarstonやShakespeareのような劇作家に大きな刺激を与えた。彼等は本作品に大きな演劇的可能性を見出し、これを基に偉大なドラマを作り上げた。The MalcontentやMeasure for Measureは宮廷のみならず、大衆にも大きな影響を与えることになる。従来、暗く、沈滞していると考えられがちであったこの時期に、英国的なるものの模索は確実に行われていたのであり、それはShakespeareの作品に代表されるエリザベス朝演劇開花への道を切り拓いたのである。
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