2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16520182
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
角田 幸彦 明治大学, 農学部, 教授 (70142544)
|
Keywords | ローマ哲学 / 弁論術 / ローマ悲劇 / 宮廷政治 |
Research Abstract |
ローマ帝政初期(元首政)の最大の哲学者セネカは哲学、倫理学、論理学、自然学についての顕著な業績のみならず、ラテン語の見事な文芸的精華と目すべき悲劇を,10篇近く作った。ローマにはギリシャ以上に沢山の悲劇詩人が登場したが、不思議なことに作品が部分的でなく完成品のまま伝えられているのはセネカの場合だけである。哲学者としてセネカは他者の魂の苦悩、悲嘆、迷いと相対峙し、切々と諄々と教化・救済的な言葉を作品化していった。そして彼の偉大さはこのことにつきることなく、更に韻文での作品世界・悲劇の創作に向かったところに認められる。 狂帝・暴君ネロの教育掛かりそして政治指南役としてセネカはローマの元首の宮廷に関わった。彼は第二代ティヘリウス、第三代カリグラ、第四代クラウディウスそして第五代のネロと、ユリア・クラウディウス家の政治を運命とし生きた。セネカの悲劇作品はことごとく、この背景を持つ政治的意図に貫かれている。セネカはローマの政治の現実に熟視し、奥の奥まで考え詰めることを通して、ギリシャ悲劇をギリシャ人の世界からローマ世界へと持ち上げ、ローマ的味付けで改変したのである。ヨーロッパの演劇・悲劇はルネサンス以後、ギリシャ悲劇ではなく、ローマ悲劇=セネカ悲劇に決定的に影響されたのは歴史的事実である。スペイン、オランダ、イタリア、フランス、ドイツ、北欧、東欧へとセネカ悲劇は驚くことに感化力を発揮していった。このところをとりわけ本年度は欧米の研究文献と相対峙して追考した。尚先達キケローとこのセネカを常に連関させて研究を続けている。
|